一、地方公共団体の長のした職務権限外の行為が外形からみてその職務行為に属するものと認められる場合であつても、相手方がその職務行為に属さないことを知り、又はこれを知らないことに重大な過失のあるときは、当該地方公共団体は相手方に対し民法四四条一項による損害賠償責任を負わない。 二、町長が代表取締役をしている会社の代表者として振り出し、みずから公印を不正に使用し町長名義で裏書をした約束手形の第二裏書人からその割引を依頼された相手方が、右手形の振出人及び第一裏書人の各代表者が同一人であることに疑念をいだき、その原因関係につき第二裏書人に説明を求め、同人から、右手形は、振出人が町有地の払下代金として同時に差し入れ、自己が施行した河舞工事代金として同町から裏書を受けたものである旨を告げられたが、なおその説明に疑念をもちながら、電話で町長本人に右手形の原因関係を問い合わせ、町長作成名義の確認書を入手したほかは、なんらの調査方法を講ずることなくその割引依頼に応じたなど判示の事実関係のもとにおいては、相手方は、町長のした右手形の裏書がその職務行為に属さないことを知らなかつたことに重大な過失があるというべきである。
一、地方公共団体の長のした職務権限外の行為についての相手方の悪意・重過失と民法四四条一項 二、町長のした職務権限外の行為につき相手方がその職務行為に属さないことを知らなかつたことに重大な過失があるとされた事例
民法44条1項
判旨
地方公共団体の長の行為が外形上職務行為に属する場合、民法44条1項の類推適用により当該団体は損害賠償責任を負うが、相手方が職務権限外であることを知っていたか、または知らないことにつき重大な過失があるときは、当該団体は責任を負わない。
問題の所在(論点)
地方公共団体の長が職務権限を濫用して行った行為について、民法44条1項の類推適用による損害賠償責任が認められるか。また、相手方に重過失がある場合に当該責任は否定されるか。
規範
地方公共団体の長の行為が、外形から見てその職務行為に属すると認められる場合には、民法44条1項の類推適用により、当該地方公共団体は賠償責任を負う。ただし、相手方において、当該行為がその職務行為に属さないことを知っていたか、又はこれを知らないことにつき重大な過失(重過失)があったときは、当該地方公共団体は損害賠償責任を負わない。
重要事実
町長Dが、自己の借金返済のため、自身が代表を務める私企業の約束手形に町長名義で不正に裏書し、知人Fを通じて上告人に割引を依頼した。上告人は、手形振出人と第一裏書人(町)の代表者が同一であることに疑念を抱き、Fから「町有地払下の代金として町に差し入れた手形を、工事代金として受領した」との虚偽説明を受けた。上告人は、D本人への電話確認とD作成の確認書のみを信じ、町会計担当者等への確認を行わず手形を割り引いたが、その後支払を拒絶された。
あてはめ
町が手形を工事代金の支払方法として裏書交付することは極めて異例である。また、振出人と裏書人の代表者が同一であり、原因関係に疑念が生じる状況であった。それにもかかわらず、上告人は疑念の対象であるD本人への確認に留まり、容易に問い合わせが可能で実情が判明したであろう会計事務担当の収入役や出納員等への確認を怠った。上告人がDの言葉を軽信して割引に応じたことは、職務行為に属さないことを知らないことにつき重大な過失があったといえる。
結論
上告人に重大な過失が認められるため、被上告人(町)は民法44条1項(類推適用)に基づく損害賠償責任を負わない。上告棄却。
実務上の射程
地方公共団体の代表者の権限濫用における「外形標準説」の適用範囲を画定するとともに、表見代理における709条責任(または民法110条等)の議論と同様に、相手方の悪意・重過失を免責事由として認めたもの。実務上、公的な代表者の不法行為責任を追及する際の主要な抗弁として活用される。
事件番号: 昭和43(オ)789 / 裁判年月日: 昭和44年6月24日 / 結論: 棄却
村収入役が権限なく相互銀行との間に金銭消費貸借契約を締結し村の借受金名義で金銭を受領した場合において、右収入役が、相互銀行に対し、村議会の議決に関する村長名義の偽造の証明書を呈示して借入れを申し込み、村長の職印を用い約束手形などを作成交付して金銭を借り受け、いつたんこれを弁済したが、その後再び右相互銀行から村の借受金名…