村収入役が権限なく相互銀行との間に金銭消費貸借契約を締結し村の借受金名義で金銭を受領した場合において、右収入役が、相互銀行に対し、村議会の議決に関する村長名義の偽造の証明書を呈示して借入れを申し込み、村長の職印を用い約束手形などを作成交付して金銭を借り受け、いつたんこれを弁済したが、その後再び右相互銀行から村の借受金名義で金銭を受領し、その係員をして、これを村の真正な債務の弁済にあてるために第三者に送金させたなど判示の事実関係があるときは、収入役の右金銭受領行為は、外形上その職務行為であるということができる。
村の借受金名義による村収入役の金銭受領行為が外形上その職務行為と認められた事例
民法44条1項,地方自治法170条
判旨
法人の機関による行為が職務権限外であっても、外形上その職務の範囲内に属すると認められるときは、民法44条1項(現行法上の法人・公共団体の損害賠償責任)に基づき賠償責任を負う。また、相手方が職務権限外であることにつき過失がないと認められる場合には、法人はその責任を免れない。
問題の所在(論点)
法人の機関(村収入役)が職務権限を逸脱して行った金銭借入および受領行為が、民法44条1項(現行法上の国家賠償法1条1項等の類推ないし適用)の「職務を行うにつき」に該当するか。また、相手方銀行に過失があるといえるか。
規範
法人の代表者等(機関)がその職務を行うにつき他人に加えた損害を賠償すべき責任(民法44条1項)において、「職務を行うにつき」とは、行為の客観的な外形から判断して、当該機関の職務行為の範囲内に属すると認められる場合を含む。また、相手方がその行為が職務権限外であることを知らないことにつき重大な過失がある場合には責任を否定すべきであるが、過失がないと認められる限り、法人は賠償責任を免れない。
重要事実
A村の収入役Dは、公金を費消した穴埋めのため、村議会の議決があった旨の虚偽の証明書を偽造し、村長の職印を冒用して銀行Fから融資を受けた。第1回目の融資は村の債務弁済に充てられ、期限内に村の公金で返済された。その後、Dは同様の手法で第2回目の融資を受け、その過半を村の債務弁済に充てつつ、残額を自ら受領した。銀行側は、過去の取引実績や偽造証明書、村長職印の提示を受け、Dに正当な権限があると信じていた。A村は、収入役には借入権限がなく「職務」に当たらないとして、不法行為責任を争った。
あてはめ
Dは村の出納・会計事務を司る収入役であり、本件借入にあたり村長名義の証明書や職印を持参して借入を申し込んでいる。この金銭受領行為は、客観的に見て収入役の職務行為たる外形を備えている。銀行側については、第1回目の借入金が実際に村の債務弁済に充てられ、正常に完済されていたという経緯がある。このような実績のもとでは、第2回目の借入時に改めて村に権限の有無を確認しなかったとしても、Dの行為を権限内と信じたことに過失があったとは認められない。したがって、外形標準説に基づき「職務を行うにつき」なされたものと評価される。
結論
村収入役の行為は外形上その職務行為といえるため、A村は不法行為に基づく損害賠償責任を負う。銀行側に過失は認められない。
実務上の射程
法人の責任を問う文脈で、機関の行為が私益を図る目的であったり権限外であったりしても、客観的な外形から職務範囲内と見えれば責任を肯定する「外形標準説」のリーディングケースである。答案上では、職務権限外であることに相手方が悪意・重過失であれば責任が否定されるという「信頼保護」の側面とセットで論じる必要がある。
事件番号: 昭和34(オ)484 / 裁判年月日: 昭和37年2月6日 / 結論: 棄却
金銭出納の権限を有しない町長が、収入役名義の金員受領書を偽造し、町を借主とする消費貸借名下に他人より金銭を詐取し、これにより他人に加えた損害は、町長が職務を行うにつき加えた損害にはあたらない。