金銭出納の権限を有しない町長が、収入役名義の金員受領書を偽造し、町を借主とする消費貸借名下に他人より金銭を詐取し、これにより他人に加えた損害は、町長が職務を行うにつき加えた損害にはあたらない。
町長が職務を行うにつき他人に加えた損害と認められなかつた事例
地方自治法149条,地方自治法170条1項(昭和31年法律147号による改正前のもの),民法44条1項
判旨
収入役が置かれた自治体において、会計事務は収入役に専属し、町長に権限はない。したがって、町長が行う金銭受領行為は外形上も職務行為とはいえず、国家賠償法1条1項の「職務を行うについて」に該当しない。
問題の所在(論点)
収入役に会計事務が専属する自治体において、町長が行った金銭受領行為が、国家賠償法1条1項にいう「職務を行うについて」なされたものといえるか。
規範
国家賠償法1条1項にいう「職務を行うについて」とは、公務員の行為が客観的にみて、当該公務員の職務の範囲内の行為、またはこれと密接に関連する行為を外形上備えていることを要する。法令上、特定の職務権限が別の役職に専属しており、当該公務員にその権限が全く認められない場合には、特段の事情がない限り、外形上の職務行為性は否定される。
重要事実
収入役が置かれている町において、町長が町のために金銭を受領した。しかし、当時の地方自治法170条によれば、町の出納その他の会計事務は収入役の専属的権限とされており、町長にはその権限が属していなかった。
あてはめ
地方自治法170条の規定によれば、会計事務は収入役に専属し、町長には属しない。このため、町長が町のために行う金銭受領行為は、本来の職務権限を欠くだけでなく、客観的・外形的にみてもその職務行為であるということができない。したがって、町長が当該行為を通じて他人に損害を加えたとしても、それは職務の範囲外の行為であり、職務を行うについてなされた損害とは認められない。
結論
町長が行った金銭受領行為は職務を行うにつき他人に加えた損害とはいえず、国家賠償法1条1項の責任は成立しない。
実務上の射程
本判決は、外形標準説の枠組みを維持しつつ、法令による明確な職務権限の分離がある場合に、その外形性を否定する一基準を示している。答案作成上は、特定の公務員の行為が「職務」に見えるかを判断する際、組織法上の権限配分(本件では地方自治法の規定)を検討材料とする必要がある。ただし、現代の判例実務では被害者保護の観点から外形性を広く認める傾向にあるため、本件のあてはめをそのまま適用する際は注意を要する。
事件番号: 昭和43(オ)789 / 裁判年月日: 昭和44年6月24日 / 結論: 棄却
村収入役が権限なく相互銀行との間に金銭消費貸借契約を締結し村の借受金名義で金銭を受領した場合において、右収入役が、相互銀行に対し、村議会の議決に関する村長名義の偽造の証明書を呈示して借入れを申し込み、村長の職印を用い約束手形などを作成交付して金銭を借り受け、いつたんこれを弁済したが、その後再び右相互銀行から村の借受金名…