株式会社の代表取締役甲が、新規事業のための調査等に必要な資金として乙から金銭を借り入れた場合において、乙が甲の私的な旧知であり、右新規事業の構想につき役員間に反対があることを知らされていること、右借入れについては、甲から代表取締役の肩書を表示した甲の名刺に右金銭借用の旨を記載した借用書の交付を受け、担保として甲個人の手形の振出し交付を受けただけで、会社の正規の借用書が作成されておらず、右借入金の出納も会社の経理部を経由していないこと等、右借入れが甲の個人的利益のために行われたもので、乙も当然これを知りえたと認める余地のある事実関係を認定しながら、その旨の会社の主張があるのにかかわらず、単に、甲と乙との間に本件借入れの当事者が甲個人であるとする別段の意思表示があつたと認めるに足りないとの理由を示しただけで、借主は会社であると判断したときは、審理不尽、理由不備の違法がある。
株式会社の代表取締役のした金銭借入れにつき会社が借主であるとした判断が違法とされた事例
民法93条,商法261条,民訴法395条1項6号
判旨
代表取締役が自己の利益を図るため権限を濫用して代表行為をした場合、相手方がその真意につき悪意または有過失であれば、民法93条1項但書の類推適用により当該行為は会社に対し無効となる。
問題の所在(論点)
代表取締役が自己の利益のために代表権を濫用して行った借入行為について、会社はその責任(借入金の返還義務)を負うか。特に、相手方が真意を知り得た場合の効力が問題となる。
規範
株式会社の代表取締役が、表面上会社の代表者として法律行為をしたとしても、それが自己または第三者の利益を図る目的で権限を濫用してなされたものであり、かつ、相手方がその真意を知り(悪意)、または知ることができた(有過失)ときは、民法93条1項但書を類推適用し、当該行為は会社に対して効力を生じない。
重要事実
上告会社の代表取締役Dは、知人である被上告人に対し、一部役員の反対がある事業の「事前工作資金」が必要であると称して、被上告人宅で合計600万円を借り入れた。Dは、会社代表者の肩書付名刺に借用意向を記載した書面を交付したが、担保としてD個人の約束手形を交付しており、会社の正規の借用証は作成されなかった。また、本件金員は会社の正規の経理部を経由していなかった。
あてはめ
Dは会社のためではなく私的な資金調達のために借入れを行っており、代表権の濫用にあたる。あてはめにおいて、①一部役員の反対がある隠密な資金調達である旨が明示されていること、②会社名義の正式な借用書ではなく肩書付名刺による代用であること、③担保が会社名義ではなくD個人の手形であること、④正規の経理ルートを回避していること、という諸事実に照らせば、相手方においてDが自己の利益を図る目的であるという真意を知り得た(有過失)と認められる余地がある。
結論
代表取締役の行為が代表権の濫用にあたり、かつ相手方がその真意を知り得た場合には、会社はその行為の効力を否定できる。本件では相手方の過失の有無を審理させるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
代表権濫用の典型判例であり、民法93条1項但書類推適用説を確立した。答案では、①外形上の代表権の範囲内であること、②図利加害目的(濫用)があること、③相手方の悪意・有過失を順に検討する枠組みとして定石的に使用する。なお、現在は民法107条が新設されたが、判例法理が明文化されたものであるため、基本的な判断枠組みに変更はない。
事件番号: 昭和31(オ)695 / 裁判年月日: 昭和33年3月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法人の代表者が、外形的に法人の職務の範囲内と認められる行為を行った場合、当該行為が実質的に業務の遂行に必要でないとしても、民法44条1項(現行民法44条)の規定に基づき、法人は損害賠償責任を負う。 第1 事案の概要:上告人(法人)の代表者が、40万円の貸金債務に関連して手形を振り出した。上告人側は…