商法第二六二条は、第三者が代表権の欠缺について善意であるかぎり、表見代表取締役のした行為の目的のいかんにかかわらず適用され、行為者の意図が自己の利益を図ることにあつた場合においては、第三者がその意図を知り、または知りうべかりしときにかぎり、会社は、民法第九三条但書の提起を類推適用して、その責を免れることができるにすぎないものと解するのが相当である。
表見代表取締役が自己の利益を図るためにした行為と会社の責任
商法262条,民法93条但書
判旨
表見代表取締役の行為が自己の利益を図る目的であっても、相手方がその意図を知り、または知ることができたときを除き、会社は民法93条但書の類推適用によりその責任を免れない。
問題の所在(論点)
表見代表取締役による行為が自己の利益を図る目的(代表権濫用)であった場合、会社はその責任を免れることができるか。また、会社法354条(旧商法262条)の適用において相手方の「重過失」または「過失」の有無は影響するか。
規範
表見代表取締役(会社法354条参照)による行為において、当該取締役が自己の利益を図る意図(代表権濫用)を有していた場合、相手方がその意図を「知り、または知り得べきであった」ときに限り、会社は民法93条1項但書を類推適用してその責任を免れることができる。また、同条の責任を負うためには相手方が善意であれば足り、過失の有無は問わない。
重要事実
Dは、上告会社の代表取締役Eから記名印および印鑑の保管を託されていたが、これらを使用して上告会社名義の約束手形2通を無断で振り出した。これに対し上告会社は、Dの行為が無権代理であり、かつ自己の利益を図る目的(濫用)であったこと等を理由に、手形の受取人である被上告人に対し責任の免除を主張した。
あてはめ
本件において、Dが保管中の印章を悪用して手形を振り出した行為は、形式的に表見代表権の範囲内にある。Dに自己の利益を図る意図があったとしても、会社が責任を免れるには、相手方である被上告人がその意図を「知り、または知り得べきであった」ことを会社側が主張・立証しなければならない。しかし、記録上、上告人は被上告人の悪意・有過失を立証していない。また、原審の認定によれば受取人は善意かつ無過失であるため、過失による免責も認められない。
結論
上告会社は、表見代表取締役による手形振出行為について、民法93条1項但書類推適用の要件(相手方の悪意・有過失)を立証できない限り、その責を免れることはできない。
実務上の射程
代表権濫用の論点と表見代表取締役の論点が重畳する場面での処理を示す。規範として「民法93条1項但書類推適用」を用いる点を明示し、相手方の主観的要件(悪意・過失)の主張立証責任が会社側にあることを答案に記載する際に有用である。
事件番号: 昭和42(オ)602 / 裁判年月日: 昭和44年4月3日 / 結論: 棄却
一、代理人が自己または第三者の利益をはかるため、代理権限を濫用して約束手形を振り出した場合において、権限濫用の事実を知りまたは知りうべかりし状態で右手形の交付を受けた受取人が、これを他に裏書譲渡したときは、本人は、手形法一七条但書の規定により、第三取得者が受取人の右知情について悪意であることを立証した場合にかぎり、右第…