一、代理人が自己または第三者の利益をはかるため、代理権限を濫用して約束手形を振り出した場合において、権限濫用の事実を知りまたは知りうべかりし状態で右手形の交付を受けた受取人が、これを他に裏書譲渡したときは、本人は、手形法一七条但書の規定により、第三取得者が受取人の右知情について悪意であることを立証した場合にかぎり、右第三取得者に対する手形上の責任を免れることができると解するのが相当である。 二、手形行為は、農業協同組合の目的たる事業の範囲に含まれる。
一、代理人が権限を濫用して振り出した約束手形と第三取得者に対する本人の手形抗弁 二、手形行為は農業協同組合の目的たる事業の範囲に含まれるか
手形法77条1項1号,手形法17条,民法43条,民法93条,農業協同組合法10条
判旨
代理権濫用による手形振出について、受取人がその目的を知り又は知り得べかりしときは民法93条但書を類推適用し、本人は責任を免れる。ただし、第三取得者に対しては、手形の流通性を重視し、所持人が本人の利益を害することを知って取得した(手形法17条但書)場合に限り対抗できる。
問題の所在(論点)
代理人が権限を濫用して手形を振り出した場合、本人は受取人および第三取得者に対して手形上の責任を免れることができるか。特に第三取得者との関係における抗弁の性質が問題となる。
規範
代理人が自己または第三者の利益を図る目的で代理権限内の行為をした場合、民法93条但書を類推適用し、相手方がその目的を知り(悪意)または知り得べかりしとき(有過失)は、その行為は本人に対して効力を生じない。もっとも、手形行為については流通証券としての特質から、この無効(免責)の抗弁は人的抗弁として構成される。したがって、本人は第三取得者に対し、所持人が債務者を害することを知って手形を取得した(手形法17条但書)ことを立証しない限り、右の免責を主張できない。
重要事実
農業協同組合(上告人)の参事Dは、組合の事業に関する包括的な代理権を有していたが、自己または第三者の利益を図る目的で、組合長名義を用いて本件手形を振り出した。受取人Eは、Dに代理権濫用の目的があることを知っていた。その後、Eは本件手形を被上告人に裏書譲渡した。被上告人が手形上の責任を追及したのに対し、組合側は代理権濫用による無効(偽造に準ずる抗弁)を主張して支払を拒絶した。
あてはめ
Dは組合の参事として一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を有しており、手形振出も客観的には権限内の行為である。しかし、Dは組合以外の者の利益を図る目的(権限濫用)を有していた。受取人Eはこの目的を知っていたため、民法93条但書を類推適用すれば、組合はEに対しては責任を免れることができる。もっとも、手形は転々と流通するものであるから、無効の抗弁を絶対的なもの(物的抗弁)と解すべきではない。本件において、被上告人が「債務者を害することを知って」(手形法17条但書)取得したという事実の主張・立証はないため、組合は被上告人に対しては免責を対抗できない。
結論
本人は、代理権濫用の事実を知っていた受取人に対しては民法93条但書類推適用により免責されるが、第三取得者に対しては手形法17条但書の悪意がない限り責任を免れない。
実務上の射程
代理権濫用の基本判例。民法改正(107条)により現在は条文上の解決が可能だが、手形法17条但書との調整(人的抗弁化)を認めた点は、権利外観法理と流通保護の調和を説くものとして、答案上も裏書譲渡後の抗弁制限の議論で引用可能である。
事件番号: 昭和41(オ)875 / 裁判年月日: 昭和42年7月6日 / 結論: 棄却
商法第二六二条は、第三者が代表権の欠缺について善意であるかぎり、表見代表取締役のした行為の目的のいかんにかかわらず適用され、行為者の意図が自己の利益を図ることにあつた場合においては、第三者がその意図を知り、または知りうべかりしときにかぎり、会社は、民法第九三条但書の提起を類推適用して、その責を免れることができるにすぎな…