代理人が、自己の利益をはかるため、代理権限を濫用して、約束手形の振出人のために、本人名義で手形上の保証をした場合において、代理人から手形の交付を受けた手形受取人が権限濫用の事実を知りうべきであったときは、受取人に対する国税滞納処分として右手形を差し押えて占有するに至つた国において、差押当時受取人の知情の点につき善意であつたことを主張立証しないかぎり、本人である保証人は、国に対し、手形上の保証による責任を負わない。
代理人が権限を濫用して約束手形の振出人のためにした手形上の保証と手形受取人に対する国税滞納処分として手形を差し押えた国に対する保証人の責任
民法93条但書,民法94条2項,手形法77条3項,手形法32条
判旨
法人の代表者が自己の利益を図る目的で権限を濫用して手形行為を行った場合、相手方がその目的を知り、または過失により知らなかったときは、民法93条但書の類推適用により当該行為は無効となる。また、その後の差押債権者等の第三者に対しても、当該第三者が善意でない限り、無効を対抗できる。
問題の所在(論点)
1.法人の代表者が権限を濫用して行った手形行為の効力と、相手方に求められる注意義務の程度(民法93条但書類推適用の可否)。 2.手形行為が権限濫用により無効となる場合、満期後に手形を差し押さえた第三者に対してその無効を対抗できるか。
規範
法人の代表者が、その権限の範囲内の行為につき、自己または第三者の利益を図る目的で権限を濫用した場合において、相手方がその目的を知り、または過失によって知らなかったときは、民法93条但書の規定を類推適用して、その行為は法人に対して効力を生じないと解するのが相当である(心裡留保の類推適用)。また、手形債務の無効等の人的抗弁は、手形法17条の保護を受けない満期後の譲受人や差押債権者に対しても対抗できるが、当該第三者が善意である場合には、民法94条2項の類推適用により無効を対抗できない。
重要事実
上告人金庫の専務理事(代表理事)Eは、理事長から業務執行一切の包括的代理権を与えられていた。Eは、自己の利益を図る目的で権限を濫用し、他人の振り出した白地手形に金庫理事長名義で手形保証をなし、被上告人B1らに交付した。B1らは、Eの目的について過失により知らなかった。その後、国(被上告人B3)が、B1に対する所得税滞納処分として、満期後に当該手形を差し押さえた。
あてはめ
1.Eは包括的代理権を有していたが、自己の利益を図る目的で手形保証を行っており、権限を濫用している。直接の相手方であるB1らは、この濫用の事実を知らなかった点につき過失があるため、民法93条但書の類推適用により、上告人はB1らに対して手形上の責任を免れる。 2.被上告人B3(国)は満期後に手形を差し押さえており、手形法17条等の保護を受けないため、上告人はB1に対する人的抗弁をB3に対抗できるのが原則である。もっとも、B3が差押当時に濫用の事実を知らなかった(善意)であれば、民法94条2項の類推適用により保護されるが、本件記録上、B3による善意の主張立証は認められない。
結論
1.相手方が濫用の事実につき過失がある場合、民法93条但書類推適用により手形保証は無効となる。 2.満期後の差押債権者が善意であるとの主張立証をしない限り、上告人は差押債権者に対しても無効を対抗できる。
実務上の射程
代表権濫用の事案において、相手方が保護される要件を「善意・無過失」に限定した(重過失不要説)。また、手形行為の無効という人的抗弁が第三者(差押債権者)に及ぶか否かについて、民法94条2項類推適用の枠組みを示した点で、手形法と民法の交錯する実務上極めて重要な射程を持つ。
事件番号: 昭和41(オ)875 / 裁判年月日: 昭和42年7月6日 / 結論: 棄却
商法第二六二条は、第三者が代表権の欠缺について善意であるかぎり、表見代表取締役のした行為の目的のいかんにかかわらず適用され、行為者の意図が自己の利益を図ることにあつた場合においては、第三者がその意図を知り、または知りうべかりしときにかぎり、会社は、民法第九三条但書の提起を類推適用して、その責を免れることができるにすぎな…