手形振出の代理権を有しない信用組合の表見参事が代理資格を冒用して約束手形を振り出した場合において、手形受取人および同人の被裏書人がいずれも右代理権のないことを知つて手形を取得したときには、信用組合は被裏書人である手形所持人に対し、右表見参事が右代理権を有しなかつたことをもつて対抗することができる。
信用組合の表見参事が権限なくして約束手形を振り出した場合と信用組合の手形所持人に対する人的抗弁
商法38条3項,手形法17条,手形法77条1項1号,中小企業等協同組合法44条
判旨
従たる事務所としての実体がない場合でも、登記が存在すれば商法14条(現9条)を類推適用し表見参事(現会社法13条等)の規定が及び得るが、悪意の者から善意の銀行へ渡り、再び悪意の者に戻裏書された手形の所持人に対しては、振出人は無権代理の抗弁を対抗できる。
問題の所在(論点)
1. 実体のない事務所の登記がある場合、表見参事の規定が類推適用されるか。2. 善意の第三者を経由して悪意の元所持人に戻った手形について、振出人は従前の抗弁をもって対抗できるか。
規範
1. 事務所としての実体がない場合でも、従たる事務所としての登記があるときは、商法14条(現9条)を類推適用し、善意の第三者との関係では表見参事(中小企業等協同組合法44条2項、商法42条。現会社法13条参照)の規定が適用される。2. 手形が、悪意の所持人から善意の第三者に裏書譲渡された後、再び当該悪意の所持人に戻裏書された場合、振出人は当該所持人に対し、裏書譲渡前に対抗できた抗弁を再び対抗できる。
重要事実
中小企業等協同組合である被上告人の事務所Dは登記されていたが、実体はなかった。営業所長Eは権限なく手形を振り出し、悪意のFおよびHへ渡った。Hは善意の銀行へ裏書譲渡したが、満期後に戻裏書を受けて再び取得し、自身が代表を務める上告会社へ期限後裏書した。上告会社が被上告人に手形金の支払いを求めた事案。
あてはめ
1. Dは従たる事務所として登記され、Eは営業所長と称していた。実体がないとしても、登記という外観を信頼した善意の第三者に対しては、Eは参事と同一の権限を有するとみなされる(表見参事の類推適用)。2. しかし、本件手形の譲受人Hは、Eに振出権限がないことを当初から知っていた悪意者である。Hが善意の銀行から戻裏書を受けた場合、善意者介在による抗弁の遮断は認められず、被上告人はH(および期限後裏書を受けた上告会社)に対し、Eが無権代理人であるとの抗弁を対抗できる。
結論
被上告人は、上告会社に対し手形上の責任を負わない。上告会社の請求を棄却した原審の判断は相当である。
実務上の射程
不実の登記がある場合の表見責任の類推適用と、手形法上の「善意の権利承継者による瑕疵の治癒(いわゆる傘の理論)」が、戻裏書によって悪意の元所持人に戻った場合には適用されないことを示す重要判例である。
事件番号: 昭和35(オ)23 / 裁判年月日: 昭和37年5月1日 / 結論: 棄却
人的抗弁の存在につき手形所持人の前者が善意であるため、手形債務者が右前者に対し人的抗弁を対抗しえなかつた場合は、手形所持人が右人的抗弁の存在を知つて手形を取得しても、右人的抗弁の対抗を受けない。