人的抗弁の存在につき手形所持人の前者が善意であるため、手形債務者が右前者に対し人的抗弁を対抗しえなかつた場合は、手形所持人が右人的抗弁の存在を知つて手形を取得しても、右人的抗弁の対抗を受けない。
人的抗弁の存在につき手形所持人の前者が善意であつた場合と手形法第一七条但書の適用
手形法17条
判旨
支配人の代理権に加えられた制限につき善意の第三者が適法に手形債務を取得した場合には、その者から手形を譲り受けた後者は、たとえ制限につき悪意であっても、前者の地位を承継して権利を行使できる。
問題の所在(論点)
商法38条2項が定める支配人の代理権制限の対抗要件と、手形法17条但書(害意の抗弁)の適用関係が問題となる。特に、善意の前者から手形を取得した悪意の後者(いわゆる「わら人形」ではない承継人)に対し、債務者は代理権制限をもって対抗できるか。
規範
支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗できない(商法38条2項)。この規定に基づき一度有効に成立した手形債務は、その後の譲渡において、譲受人が制限の存在につき悪意であっても、前者の有する完全な権利を承継取得するため、債務者は制限をもって対抗できない。また、手形法17条但書は、前者が善意で人的抗弁を対抗し得ない場合には、後者が悪意(害意)であっても適用されない。
重要事実
上告人(被告)の支店長Fは、代理権を制限されていたにもかかわらず、本件手形に保証(手形保証)を行った。第一取得者であるD商店は、Fの権限制限について善意で本件手形を取得した。その後、米国人Gを経て被上告人(原告)が本件手形を取得したが、被上告人はFの権限制限について悪意であった。上告人は、被上告人が悪意であることを理由に、代理権制限を対抗して手形債務の履行を拒んだ。
あてはめ
まず、第一取得者であるD商店はFの権限制限につき善意であったため、商法38条2項により、上告人はD商店に対して制限を対抗できず、D商店は有効に手形債権を取得した。次に、被上告人はD商店から直接または間接(G経由)に権利を承継したものである。一度善意の取得者によって有効に確定した手形債権は、承継人(被上告人)がたとえ悪意であっても、その瑕疵が治癒された状態の権利として承継される。また、手形法17条但書は、前者が抗弁を対抗される状況にあることを前提とする規定であり、本件のように前者が善意で抗弁を対抗されない場合には、後者が悪意であっても同条の適用により抗弁を復活させることはできない。
結論
被上告人は、Fの代理権制限につき悪意であっても、善意の前者の地位を承継し、上告人に対し手形債務の履行を請求できる。上告を棄却する。
実務上の射程
商法上の支配人の表見代理(外観法理)および手形上の人的抗弁の切断に関する「承継人の地位」を確立した判例である。答案上は、一度善意者が介在すれば権利が浄化されるという「遮断機」の論理を説明する際に、商法38条2項および手形法17条の両面から引用すべきである。
事件番号: 昭和38(オ)1453 / 裁判年月日: 昭和39年7月10日 / 結論: 棄却
融通手形の抗弁は、第三者に対しては、これを知って取得した場合でも、対抗できない。