債務者を害することを知らないで手形の所持人となつた者に対しては、重大な過失があると否とを問わず、前者に対する人的抗弁をもつて対抗することはできない。
手形所持人の過失の有無と手形法第一七条。
手形法17条,小切手法22条
判旨
手形法17条にいう「債務者を害することを知りて」とは、手形取得者が債務者の抗弁の存在を認識していることを指し、重大な過失がある場合であっても悪意でない限り、債務者は所持人に対して抗弁を対抗できない。
問題の所在(論点)
手形法17条本文に基づき、手形所持人が「債務者を害することを知りて」手形を取得したといえない場合において、所持人に重大な過失があるときに、債務者は人的抗弁をもって対抗することができるか。
規範
手形法17条は、手形債務者が人的抗弁をもって対抗し得る場合を限定し、手形流通の安全のため広く善意の手形所持人を保護することを趣旨とする。したがって、同条にいう「債務者を害することを知りて」とは、債務者を害することを知らない(悪意でない)所持人であれば、重大な過失の有無を問わず保護され、人的抗弁の切断が認められると解すべきである。また、16条2項の類推適用や17条但書の拡張解釈による重過失の包含も認められない。
重要事実
手形債務者である上告人は、手形所持人である被上告人に対し、前者の所持人に対する人的抗弁を対抗し得ると主張した。上告人は、被上告人が手形を取得する際に重大な過失があった場合には、手形法16条2項を類推適用し、あるいは同法17条但書を拡張解釈して、人的抗弁を対抗できると主張して上告した。
あてはめ
手形法17条の法意は、権利帰属を目的とする16条2項とは異なり、人的抗弁の制限を通じて手形流通の安全を確保することにある。本件において、被上告人が債務者を害することを知っていた(悪意であった)との事実は認められない。この場合、被上告人に重大な過失があるか否かを問わず、同条の保護を受ける権利がある。したがって、上告人が主張する重過失による抗弁の対抗は、同条の解釈上認められない。
結論
手形所持人が債務者を害することを知らないで手形を取得した以上、たとえ重大な過失があったとしても、債務者はその前者に対する人的抗弁をもって所持人に対抗することはできない。
実務上の射程
手形法17条における「悪意」の解釈を確定させた重要判例である。答案作成上は、善意取得(16条2項)における「重過失」の要件と、人的抗弁の切断(17条)における「悪意」の要件を混同しないよう注意が必要。17条但書の適用には、単なる知得(悪意)だけでなく、債務者を害する意図に近い「悪意」が必要であるとする通説的見解(害意説)への橋渡しとして、少なくとも重過失を含まないことを示す際に引用する。
事件番号: 昭和30(オ)378 / 裁判年月日: 昭和31年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形法17条但書の「害することを知りて」とは、単に人的抗弁事由の存在を認識しているだけでは足りず、手形取得時にその抗弁が確定的に発生していることを知っている必要がある。 第1 事案の概要:上告人は、本件手形が特定の売買契約の代金支払のために振り出されたものであると主張し、被上告人がその事実を知って…