一、約束手形の振出人の代理人と受取人の代表者とが同一人であつて、手形の振出につき双方代理行為が成立するときは、振出行為の完成を留保すべき特段の事情のないかぎり、振出人の代理人として法定の形式に従つて手形の作成をおえた時に振出行為が完成し、その後は受取人の代表者の資格において手形を所持するにいたるものと解すべきである。 二、民法一〇八条に違反して約束手形が振り出された場合において、右手形が第三者に裏書譲渡されたときは、右第三者に対しては、本人は、その手形が双方代理行為によつて振り出されたものであることについて第三者が悪意であつたことを主張・立証しないかぎり、振出人としての責任を免れない。
一、双方代理により振り出された約束手形と振出完成の時期 二、民法一〇八条に違反して振り出された約束手形の第三取得者に対する本人の手形上の責任
民法108条,手形法75条,手形法8条
判旨
支配人による双方代理行為としての手形振出について、民法108条本文の無効は善意の第三者には対抗できず、また会社は第三者の悪意を主張・立証しない限り代理権の制限を対抗できない。
問題の所在(論点)
1. 取締役就任前の支配人による自己取引的行為に会社法356条(旧商法265条)が適用されるか。2. 支配人の双方代理による手形振出の無効を、善意の第三者に対抗できるか。3. 支配人の代理権の制限を第三者に対抗するための要件は何か。
規範
1. 会社法356条1項(旧商法265条)は取締役の忠実義務に由来する規定であり、支配人には類推適用されない。2. 支配人が民法108条本文に違反して手形を振り出した場合、本人は相手方に対して無効を主張できるが、手形が裏書譲渡された第三者に対しては、当該第三者が悪意であることを主張・立証しない限り無効を対抗できない。3. 支配人の代理権に対する内部的な制限は、商法38条3項により善意の第三者に対抗できない。
重要事実
被上告会社の副支配人Hは、自身が代表取締役を務める別会社(E開発)が負担していた債務を支払うため、被上告会社の代表取締役印を無断で使用し、被上告会社を振出人、E開発を受取人とする本件約束手形を作成した。その後、本件手形は第三者である上告人に裏書譲渡された。当時、Hは近い将来被上告会社の取締役に就任する予定であり、業務運営を一任されていたが、手形振出等の負担行為については旧経営陣との合意が必要との内部的な権限制限(申合せ)が存在した。
あてはめ
1. Hによる手形作成は、取締役就任前(副支配人の地位)に行われたものである。同条は取締役に課せられた忠実義務を根拠とするため、支配人には適用されない。2. 本件手形振出は、Hが被上告会社の代理人かつE開発の代表者として行ったものであり、民法108条本文の双方代理に該当する。しかし、手形の流通性を重視すれば、会社側が取得者の悪意を主張・立証しない限り、この無効を第三者に対抗できないと解すべきである。3. 内部的な「申合せ」による権限制限についても、商法38条3項に基づき、会社側が上告人の悪意を主張・立証しなければ対抗し得ない。
結論
被上告会社は、上告人が双方代理の事実または代理権制限について悪意であったことを主張・立証しない限り、手形金支払債務を免れない。したがって、上告人の悪意を審理せずに請求を棄却した原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
会社法上の利益相反取引(356条)と民法上の自己契約・双方代理(108条)の使い分けを明確にした事例である。支配人(又は執行役等)による取引については、民法の一般原則と商法38条の代理権規定によって解決を図るべきであることを示している。
事件番号: 昭和42(オ)848 / 裁判年月日: 昭和45年3月27日 / 結論: 棄却
手形振出の代理権を有しない信用組合の表見参事が代理資格を冒用して約束手形を振り出した場合において、手形受取人および同人の被裏書人がいずれも右代理権のないことを知つて手形を取得したときには、信用組合は被裏書人である手形所持人に対し、右表見参事が右代理権を有しなかつたことをもつて対抗することができる。