商法四二条二項にいう相手方とは当該取引の直接の相手方に限られ、手形行為の場合には、この直接の相手方は、手形上の記載によつて形式的に判断されるべきものではなく、実質的な取引の相手方をいうものと解すべきである。
商法四二条二項にいう相手方の意義
商法42条2項
判旨
表見支配人の成立には、当該人物が商人の「使用人」であることが必要であり、また、表見代理の規定により保護される「第三者」は、直接の取引相手方に限られ、手形行為においては実質的な取引の相手方を基準に判断すべきである。
問題の所在(論点)
1. 商人と雇用関係にない者が「所長代理」等の名称を用いて行為した場合に表見支配人(商法24条1項)が成立するか。2. 表見代理(同条2項、民法110条)の規定に基づき保護される「第三者」に、直接の取引相手方以外の転得者が含まれるか。
規範
1. 商法24条(旧42条)1項の表見支配人が成立するためには、当該人物が商人の「使用人」であること、および営業所の主任者であることを示す名称を付されていることが必要である。2. 同条2項の適用により保護される第三者は、当該取引の直接の相手方に限られる。手形行為においては、手形面上の記載のみならず、実質的な取引の相手方を基準に判断すべきであり、直接の相手方が悪意であれば、その後の転得者が善意であっても表見代理の成立を主張することはできない。
重要事実
上告人の営業所長Dは、雇用関係のないEに対し、所長名義での契約締結等の権限を包括的に委任した。Eは「所長代理」の肩書で業務を処理していたが、資金繰りのため所長名義の裏書を偽造(本件裏書)し、G建設に手形割引を依頼した。G建設は偽造の事実を知っていた(悪意)。その後、G建設から割引依頼を受けた被上告人は、偽造について善意で手形を譲り受けたが、手形は不渡りとなったため、被上告人が上告人に対し裏書人としての担保責任を追及した。
あてはめ
1. Eは上告人と雇用関係がなく「使用人」ではない。また「所長代理」は営業所の主任者たることを示す名称ともいえないため、表見支配人は成立しない。2. 被上告人はG建設から手形を譲り受けた転得者であり、Eとの直接の取引相手はG建設である。本件裏書の直接の相手方であるG建設が悪意である以上、転得者である被上告人が善意であっても、上告人は表見代理による担保責任を負わない。手形行為の性質上、実質的な取引の相手方を基準に保護の可否を決すべきである。
結論
表見支配人の成立は否定され、また、直接の相手方が悪意である以上、善意の転得者は表見代理の規定(商法24条、民法110条類推適用)に基づき責任を追及することはできない。上告人の担保責任は否定される。
実務上の射程
商法上の表見法理において「使用人」要件を厳格に解する立場を示すとともに、手形法理における善意取得(手形法16条2項)と、民法・商法上の表見代理による責任追及を峻別し、後者の「第三者」の範囲を直接の相手方に限定する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和31(オ)207 / 裁判年月日: 昭和35年1月12日 / 結論: 棄却
甲会社名古屋出張所取締役所長として約束手形を裏書譲渡した乙が、甲会社を代理または代表する権限を有しなかつた場合でも、裏書が形式的に連続しており、被裏書人に悪意または重大な過失がなかつたときは、右被裏書人は振出人に対しその手形上の権利を行使できるものと解するのが相当である。