某銀行支店長の保証のある受取人欄白地の約束手形の交付を受けた者が、その当時、右支店長に手形保証の権限のないことを知らなかつた以上は、手形補充の時にはすでにこれを知つていたとしても、商法四二条二項にいう悪意であつたものということはできない
手形の取得と商法第四二条第二項の悪意を決すべき時期
商法42条,手形法10条
判旨
表見支配人(商法42条1項)の責任を問う場合の相手方の悪意の有無は、手形取得時を基準として判断すべきであり、白地補充時ではない。また、手形行為独立の原則(手形法32条2項)により、主たる債務が不法原因給付等で実質的に無効であっても、手形保証人は独自の責任を免れない。
問題の所在(論点)
1. 表見支配人の行為による責任を問う場合、相手方の悪意・重過失の判断基準時はいつか(手形取得時か、白地補充時か)。 2. 主たる債務が不法原因給付等の実質的瑕疵を有する場合、手形保証人は責任を免れるか(手形法32条2項の解釈)。
規範
1. 表見支配人の行為について商法42条2項(現商法24条後段等)により免責を主張するための相手方の悪意・重過失の有無は、法律関係が形成される「取引時(手形取得時)」を基準に判断すべきである。白地手形の補充の遡及効は権利行使の問題にすぎず、主観的要件の判断時期に影響しない。 2. 手形法32条2項(手形行為独立の原則)は、形式上の成立さえあれば実質的無効を問わず債務が成立する趣旨であり、主たる債務が公序良俗違反等で無効であっても、保証債務の効力には影響しない。
重要事実
振出人Dは、A銀行H支店長Gに対し、Fに交付する約束手形への保証を依頼し、GはA銀行を代理して保証する権限がないにもかかわらず保証の記載と記名押印を補箋で行った。Fは、手形要件の一部が白地の状態で手形の交付を受けた。Fは手形取得当時、Gに代理権がないことを知らなかったが、その後、満期後・訴訟提起前に白地部分を補充した。補充時においてFはGの無権限を知っていたため、A銀行はFが悪意であると主張し、また主たる債務が不法原因給付であることを理由に保証債務の履行を拒んだ。
あてはめ
1. 表見支配人による手形行為において、商法42条2項の適用(悪意の有無)を判断するには、取引がなされた手形取得の時を標準とすべきである。本件では、Fが手形を取得した当時、Gの無権限につき善意であったと認められる以上、後の補充時に悪意となったとしても銀行は免責されない。 2. 手形法32条2項は、手形行為独立の原則を定めたものであり、手形債務が方式の瑕疵なく形式上成立していれば足り、実質的に有効であることを要しない。したがって、主たる債務が不法原因給付であるとしても、銀行は手形保証人としての債務を免れることはできない。
結論
1. 悪意の判断基準時は手形取得時であり、Fは善意であるため銀行は責任を負う。 2. 手形行為独立の原則により、主たる債務の不法性は保証債務の効力を妨げない。
実務上の射程
白地手形における表見代理や表見支配人の成否について、補充時ではなく「取得時」が基準となることを明示した重要な判例である。また、手形行為独立の原則が、公序良俗違反(不法原因給付)等の実質的瑕疵にまで及ぶことを示す答案上の定番規範として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)629 / 裁判年月日: 昭和33年6月17日 / 結論: 破棄差戻
無権代理人が振出した約束手形につき、表見代理が成立すると認められる場合であつても、手形所持人は表見代理の主張をしないで、無権代理人に対し手形法第八条の責任を問うことができるものと解すべきである