判旨
代理権を授与された者が、自己の利益を図る目的で権限を濫用して手形を振り出した場合でも、その手形は偽造ではなく真正なものとして成立し、振出人は善意の取得者に対して責任を負う。
問題の所在(論点)
代理人が代理権の範囲内の形式を備えつつ、自己または第三者の利益を図る目的で手形を振り出した(権限の濫用)場合において、その手形の効力および振出人の責任はいかに解すべきか。
規範
代理人がその権限を濫用して手形行為を行った場合であっても、当該手形行為は無権代理や偽造ではなく、代理人の権限内の行為として一応の効力を有する。手形振出人は、手形取得者が代理権の濫用について悪意である場合に限り、その事由をもって対抗することができるが、善意の取得者に対しては手形上の責任を免れない。
重要事実
組合長Eから金融斡旋の依頼を受けたDは、補助者Fを使用して30万円を限度に約束手形を振り出す権限を認められた。DはFに対し、必要時に所定事項を記入して行使することを許容して白紙の手形用紙2枚を交付した。しかし、Fはそのうち1枚を利用し、自己の利益のために10万円の本件手形を作成してHに交付し、得た金員を消費した。組合側は、Fの行為は権限外であり手形は偽造であると主張して責任を争った。
あてはめ
Dは組合長から手形振出の権限を付与されており、Fに手形用紙を交付した行為自体はDの権限内である。Fによる本件手形の振出は、Dの権限を濫用したものであり、受任の範囲内とはいえない側面がある。しかし、権限濫用による手形振出は「偽造」には当たらない。したがって、本件手形は真正に成立したものであり、取得者Hが濫用の事実を知っていた(悪意)などの事情がない限り、振出人たる組合は手形上の責任を免れることはできない。なお、仮に権限が消滅した後に振り出されたとしても、善意の取得者との関係では同様に解される。
結論
本件手形は偽造手形ではなく真正な手形であり、振出人である組合は、取得者の悪意が証明されない限り、手形上の責任を負う。
実務上の射程
手形法における代理権濫用の基本判例である。民法107条(旧判例法理)の枠組みを維持しつつ、手形の流通保護の観点から「偽造」を否定する。答案上は、表見代理との区別を明確にしつつ、取得者の「悪意」の有無を検討する際の規範として活用すべきである。
事件番号: 昭和33(オ)463 / 裁判年月日: 昭和37年1月19日 / 結論: 棄却
信用金庫に対する手形の切替について代理権限を与えられていたなど原審認定の事情のもとでは、当該手形保証につき権限ありと信ずる正当の理由がある。