判旨
会社の使用人が、代表者の承諾を得て継続的に会社名義の手形振出等を行っていた場合、当該行為は使用人の代理権限の範囲に属し、特定の振出について個別の承諾がなくても偽造には当たらない。
問題の所在(論点)
使用人が代表者の承諾を得ずに作成した会社名義の手形について、過去の反復的な取引実績から代理権の存在を認め、偽造の成立を否定できるか。また、表見代理の成否が問題となる。
規範
特定の事務について代表者の事前・事後の承諾を得て継続的に代理行為を行っている場合、その事務は使用人の権限範囲内の行為と認められる。この範囲内で行われた行為は、たとえ当該具体的な行為について個別の承諾を得ていなかったとしても、代理権の範囲内と解され、偽造(無権限者による署名)には該当しない。
重要事実
上告会社(合資会社)の使用人Dは、約2年間にわたり債権取立や不動産仲介に従事していたが、代表社員の承諾のもと、会社のための資金借入れや会社名義の手形振出しも行っていた。被上告人との間でも、過去5〜6回、代表者の承諾を得て会社名義の約束手形を作成・交付し、それらは支障なく決済されていた。本件手形についてもDが同様に作成したが、上告会社は今回に限っては代表者の承諾を得ていないとして、偽造を主張し責任を争った。
あてはめ
Dは長年、代表者の承諾を得て手形振出等の業務に従事しており、被上告人との間でも過去数回にわたり会社名義の手形決済を円滑に完了させてきた。このような事実関係の下では、Dは手形行為をする代理権限を授与されていたと解するのが相当である。本件手形の作成において、結果的に個別の承諾を得ていなかったとしても、既に包括的な代理権限が認められる以上、Dによる手形作成を「偽造」と評価することはできない。また、相手方がDに権限があると信じたことには正当な理由があるといえる。
結論
Dによる手形振出は代理権限の範囲内であり偽造には当たらない。また、相手方の信頼には正当な理由があるため、上告会社は手形上の責任を免れない。
実務上の射程
手形法上の偽造の抗弁に対し、代理権の存在(または表見代理)をもって反論する際の判断枠組みを示す。特に「承諾」の反復が代理権授与の事実認定に直結する点や、個別承諾の欠如が直ちに偽造を構成しない点において、実務上の立証のポイントを提示している。
事件番号: 昭和36(オ)402 / 裁判年月日: 昭和37年7月6日 / 結論: 棄却
手形振出の代理権限を有する者が本人の記名捺印を代つてする権限をも与えられている場合に、本人名義の記名捺印をもつてした手形振出は、手形代理行為として有効である。