一、手形行為は、農業協同組合の目的たる事業の範囲に含まれると解すべきである。 二、農業協同組合の参事が代理名義を用いず、直接同組合の理事名義で手形を振出した場合、右手形の振出行為は組合の行為として有効である。
一、手形行為は農業協同組合の目的たる事業の範囲に含まれるか 二、農業協同組合の参事が代理名義を用いず直接同組合の理事名義で手形を振出した場合の右手形の振出行為の効力
農業協同組合法10条,農業協同組合法42条3項,民法43条,商法38条1項,手形法8条
判旨
農業協同組合の参事が直接本人の記名捺印をして手形を振り出す行為は、代理権の範囲内であれば手形法上の偽造にあたらず、その動機が私利を図るものであっても有効である。
問題の所在(論点)
代理人が直接本人の名称を記名し捺印する方式による手形振出の有効性、および代理人が私利を図る目的で権限内の手形行為をなした場合に手形法上の偽造が成立するか。
規範
1. 手形行為において、代理人が代理名義を使用せず直接本人の記名捺印をする方式(機関用法的方式)も許容され、その代理権の範囲は代理名義を用いた場合と異ならない。2. 代理権を有する者がなした手形行為は、その動機が私利を図るものであっても代理権の有無に関する判断を左右せず、手形法上の偽造にはあたらない。3. 刑法上の有価証券偽造の成否と手形法上の有効性は、その立法趣旨を異にするため必ずしも一致しない。
重要事実
農業協同組合(被上告人)の参事Dが、その権限に基づき、組合を代理して本件約束手形を振り出した。その際、Dは代理名義(「被上告人代理人D」等)を用いず、直接被上告人の名称を記名し、その印鑑を捺印する方法をとった。また、この振出行為は、Dが自己の私利を図る目的(代理権の濫用的な動機)で行われたものであった。上告人は、かかる行為は手形法上の偽造にあたり無効であると主張して争った。
あてはめ
まず、農業協同組合の参事は農協法42条3項、商法38条1項により事業に関する一切の裁判上・裁判外の行為をなす包括的な権限を有しており、手形振出もこれに含まれる。次に、代理人が代理名義を明示せず本人の記名捺印を直接行う方式であっても、代理権の範囲内でなされる限り、通常の代理方式と法的効果に差異を認めるべき合理的理由はない。したがって、本件振出は有効な代理権の行使といえる。さらに、振出の動機が私利を図るものであったとしても、それは内部的な事情に過ぎず、客観的に認められる代理権の範囲を左右するものではない。ゆえに、本件行為は適法な権限に基づくものであり、手形法上の偽造には該当しない。
結論
本件手形の振出行為は手形法上の偽造にはあたらず、被上告人は手形債務を免れない。上告を棄却する。
実務上の射程
代理人が本人の署名を代行する「署名代行(代行名義)」の有効性を認めた点に意義がある。答案上では、顕名の有無や偽造・変造の論点において、代理権を有する者が本人名義を直接用いた場合の有効性を根拠付ける際に引用すべき判例である。また、代理権濫用と偽造の区別についても示唆を与えている。
事件番号: 昭和36(オ)402 / 裁判年月日: 昭和37年7月6日 / 結論: 棄却
手形振出の代理権限を有する者が本人の記名捺印を代つてする権限をも与えられている場合に、本人名義の記名捺印をもつてした手形振出は、手形代理行為として有効である。