判旨
手形行為の代理において、代理人が本人の承諾を得て本人の氏名を記載し、本人から交付を受けた実印を押捺する形式(署名代理)によっても、有効に手形債務が成立する。
問題の所在(論点)
手形法上の記名押捺において、代理人が本人の承諾を得て本人の氏名を代書し実印を押捺する「署名代理」の形式により、本人に手形債務の効力が帰属するか。
規範
手形行為の代理は、代理人が本人のためにすることを示す方法(顕名)のみならず、代理人が本人の氏名を自ら記載し、本人の印章を押捺する、いわゆる署名代理の形式によっても有効に成立する。この場合、本人から代理権が付与され、かつ本人の氏名を記載・押捺することへの承諾がある限り、代理人が直接記名押捺したのと同様の効力が本人に帰属する。
重要事実
債務者Dは、被上告金庫からの借入金30万円の返済確保のため約束手形を振り出した。その際、上告人(Aおよび他1名)は手形保証人となることを約し、Dが上告人らに代わって保証の記名押捺をすることを承諾した。Dは使用人をして、本件手形に保証人として上告人らの氏名を記載させ、あらかじめ上告人らから交付を受けていた各人の実印をそれぞれの名下に押捺した上で、被上告金庫に交付した。
あてはめ
本件では、上告人らが保証人となることを約した上で、Dに対し自己を代理して手形への記名押捺をすることを承諾している。Dが自ら(または使用人を介して)上告人らの氏名を記載し、上告人らから正当に預かった実印を押捺した行為は、まさに上告人らから付与された代理権の範囲内かつ承諾に基づくものである。したがって、本件手形保証の記名押捺は、署名代理の形式として法的に欠けるところはなく、有効な代理行為と評価される。
結論
本件署名代理による手形保証は有効であり、上告人らは手形保証債務を免れない。
実務上の射程
手形法上の「署名」が「記名押捺」で代えうる(手形法82条等)ことを前提に、代理関係において顕名(「A代理人B」等)を欠く署名代理方式の有効性を認めた事例である。答案上は、顕名主義(商法504条・民法99条)の例外としての手形代理の特殊性というよりは、署名代理という表示方法自体が代理の有効な一形態であることを示す際に活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)412 / 裁判年月日: 昭和39年6月25日 / 結論: 棄却
一 手形の振出について民法第一一〇条を適用する場合において、受取人が振出代理人の機関として振出人の氏名を記載したとしても、当該手形の受取人を同条にいう「第三者」と解するにさまたげない。 二 約束手形の所持人が該手形の満期にこれを支払場所で所持していた場合には、振出人が出頭しないときでも、適法な提示があったものとみるべき…