一 手形の振出について民法第一一〇条を適用する場合において、受取人が振出代理人の機関として振出人の氏名を記載したとしても、当該手形の受取人を同条にいう「第三者」と解するにさまたげない。 二 約束手形の所持人が該手形の満期にこれを支払場所で所持していた場合には、振出人が出頭しないときでも、適法な提示があったものとみるべきである。
一 手形の振出と民法第一一〇条にいう第三者。 二 約束手形の所持人が該手形を満期に支払場所で所持していれば呈示があったとみられるか。
民法110条,手形法38条
判旨
代理人が権限を踰越し署名代理の方法で本人名義の約束手形を振り出した場合にも、民法110条が適用される。また、当該手形の受取人は、たとえ自ら振出人の氏名を代筆したとしても、同条の「第三者」に該当する。
問題の所在(論点)
1. 署名代理の形式による手形振出に民法110条が適用されるか。2. 手形の受取人が、振出人の氏名を代筆した場合であっても、民法110条の「第三者」に当たり得るか。
規範
1. 代理人が権限を踰越し、署名代理(本人名義での署名)の方法で手形行為を行った場合、表見代理(民法110条)の規定が適用される。2. 民法110条にいう「第三者」とは、当該手形の受取人を指す。3. 受取人が振出代理人の機関(手足)として振出人の氏名を代筆したとしても、代理権の存在を信ずべき正当な理由がある限り、同条の適用は妨げられない。
重要事実
訴外Dは、上告人の代理人として約束手形を振り出したが、その際、上告人から与えられた基本代理権の範囲を逸脱していた。Dは、受取人である被上告人に対し、上告人の氏名を代筆するよう依頼し、被上告人がこれに応じて上告人名義を記載する形で手形が完成した。被上告人は、Dに当該手形を振り出す権限があると信じており、そのことに正当な理由があった。その後、被上告人が上告人に対し手形金の支払を求めた事案である。
あてはめ
1. 署名代理は実質的に代理の性質を有する以上、権限踰越がある場合には民法110条の類推適用ではなく直接適用により本人に効果が帰属する。2. 本件において、受取人である被上告人はDから依頼を受けて代筆したに過ぎず、振出の意思表示の相手方であることに変わりはないため、同条の「第三者」に該当する。3. 原審が確定した諸般の事情によれば、被上告人がDの権限を信じたことには正当な理由が認められるため、上告人は振出人としての責任を免れない。
結論
本件手形の振出には民法110条が適用され、被上告人は「第三者」として保護される。したがって、上告人は手形債務を負担し、遅延損害金を含めた支払義務を負う。
実務上の射程
署名代理や代行による手形行為において表見代理の成否が問われる際のリーディングケースである。特に受取人が代筆に関与した場合でも、代理権の存在を信ずるに足りる客観的状況があれば「第三者」として保護される点を明確にしており、手形の流通保護を重視する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和37(オ)232 / 裁判年月日: 昭和39年9月15日 / 結論: その他
代理人が代理権の範囲を越えいわゆる署名代理の方法により振り出した約束手形について、受取人においてこれを本人みずから振り出した手形であると信じ、かつ、そのように信ずるにつき正当の理由があつたときは、本人は、民法第一一〇条の類推適用により、振出人としての責に任ずると解するのが相当である。