代理権限を踰越し署名代理の方法によつて約束手形が振出された場合にも、民法第一一〇条の適用がある。
権限踰越の署名代理による手形振出と民法第一一〇条の適用
手形法8条,手形法77条2項,民法110条
判旨
代理人が本人を代理する旨を示してその署名を代行する「署名代理」の形式で行われた手形行為についても、代理人がその権限を踰越した場合には、民法110条の表見代理の規定が適用される。
問題の所在(論点)
代理人が本人(代表取締役)の署名を代行する「署名代理」の形式により、権限を踰越して手形行為を行った場合に、民法110条の表見代理の規定を適用して本人に手形責任を負わせることができるか。
規範
民法110条(権限外の行為の表見代理)の規定は、代理人が本人の氏名を署名するいわゆる署名代理の形式によって行われた手形行為についても適用される。具体的には、代理人が基本代理権を有し、その権限を踰越して手形を振り出した場合において、相手方がその権限があると信ずべき正当な理由があるときは、本人はその責任を免れることができない。
重要事実
上告会社(本人)の取締役であり、かつ総務部長または経理部長の地位にあったDが、上告会社の仕入品代金の支払のために、上告会社代表取締役の署名を代理する方法によって本件手形二通を振り出した。しかし、Dには当該手形を振り出す具体的な代理権限はなかった。受取人であるE株式会社は、Dに当該権限があるものと信じていた。
あてはめ
本件において、Dは取締役兼部長という地位にあり、一定の基本代理権を有していたといえる。そのDが、本来の権限を越えて代表取締役の署名を代理する形で手形を振り出した行為は、権限外の行為に該当する。また、相手方であるE株式会社において、Dに振出権限があると信ずるにつき「正当の事由」があると認められる以上、同条の要件を充足する。署名代理は顕名の一態様であるから、通常の代理と同様に表見代理の理を認めるべきである。
結論
署名代理による手形振出についても民法110条が適用されるため、上告会社は本件手形について振出人としての責任を負う。
実務上の射程
手形法上の署名代理における表見代理の適用を肯定した重要判決である。答案上は、署名代理が「代理」に含まれることを前提に、民法110条を類推適用ではなく直接適用する構成を採る際に活用する。相手方の「正当な理由」の判断にあたっては、代理人の社内での地位や手形作成の経緯を重視する。
事件番号: 昭和37(オ)232 / 裁判年月日: 昭和39年9月15日 / 結論: その他
代理人が代理権の範囲を越えいわゆる署名代理の方法により振り出した約束手形について、受取人においてこれを本人みずから振り出した手形であると信じ、かつ、そのように信ずるにつき正当の理由があつたときは、本人は、民法第一一〇条の類推適用により、振出人としての責に任ずると解するのが相当である。