共同代表の定があるのにかかわらず、代表取締役の一人が、単独で、代表取締役の名称を使用して約束手形を振り出した場合においても、右手形の取得者が、共同代表の定の登記がされていることを知らず、右代表取締役が社長と称し会社の主宰者として行動している事実から単独の代表権を有するものと信じてこれを取得し、会社においても当時右代表取締役が社長と称して行動することを許容し、または黙認していた等の事情が存在するときは、会社は、右手形について、商法第二六二条の類推適用により、振出人としての責に任ずるものと解するのが相当である。
共同代表の定があるのに代表取締役の一人が単独の代表名義で約束手形を振り出した場合に商法第二六二条の類推適用があるとされた事例
商法262条,商法261条,商法12条
判旨
共同代表の定めがある株式会社において、代表取締役の一人が単独で行った代表行為についても、相手方が善意無過失であれば会社法354条(旧商法262条)が類推適用される。
問題の所在(論点)
共同代表の定め(会社法349条4項、旧商法261条2項)及びその登記(同法911条3項15号、旧商法188条2項12号)がある場合において、単独の代表行為に表見代表取締役の規定(会社法354条、旧商法262条)を類推適用できるか。
規範
株式会社の代表取締役について共同代表の定めがあり、その旨の登記がある場合であっても、代表取締役の一人が単独で行った行為について会社法354条(旧商法262条)の規定を類推適用できる。この理は、当該行為が手形行為である場合も同様である。具体的には、①代表取締役の名称を付して行為がなされ、②会社が当該取締役に対し社長等の名称を用いて行動することを許容または黙認し、③相手方が共同代表の定めの登記があることを知らず(善意)、かつ単独の代表権があると信じたことに過失がないときは、会社は責任を負う。
重要事実
被上告会社は、代表取締役DとEが共同して会社を代表する旨の登記をしていた。Dは単独で、代表取締役の名称を用いて本件約束手形を振り出し、これが巡り巡って上告人(所持人)の手元に渡った。上告人は、共同代表の定めの登記があることを知らず、Dが被上告会社の社長と称し主宰者であったことから、単独の代表権を有すると信じていた。原審は、共同代表の定めがある場合には商法262条は適用されないとして、上告人の請求を排斥した。
あてはめ
Dは「代表取締役」という名称を用いて手形を振り出しており、外観が存在する。上告人が、共同代表の登記を過失なく知らず、Dに単独代表権があると信じていたのであれば、権利外観法理に基づく保護の必要がある。また、被上告会社が当時、Dが社長と称して行動することを許容・黙認していた等の事情があれば、帰責事由も認められる。共同代表の登記があることは、商法12条(現会社法908条1項)により第三者に悪意を擬制するが、表見規定の適用を直ちに妨げるものではない。
結論
本件各手形振出について、会社法354条(旧商法262条)の類推適用により被上告会社が振出人としての責任を負う余地がある。したがって、その要件を満たすか否かを審理させるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
共同代表という『代表権の制限』がある場面において、登記の公示力(会社法908条1項)と表見法理(同354条)の優先関係が問題となる際に活用する。本判決は、登記があっても表見法理が優先し得ることを示しており、答案上は相手方の善意無過失を要件として構成すべきである。
事件番号: 昭和41(オ)875 / 裁判年月日: 昭和42年7月6日 / 結論: 棄却
商法第二六二条は、第三者が代表権の欠缺について善意であるかぎり、表見代表取締役のした行為の目的のいかんにかかわらず適用され、行為者の意図が自己の利益を図ることにあつた場合においては、第三者がその意図を知り、または知りうべかりしときにかぎり、会社は、民法第九三条但書の提起を類推適用して、その責を免れることができるにすぎな…