当事者が民法第一一二条の表見代理による約束手形金の支払請求を主張している場合であっても、商法第二六二条の要件事実が主張されている以上、同条の表見代表取締役の行為による会社に対する責任に基づいて、請求を認容することに違法はない。
民法第一一二条の表見代理の主張に対し商法第二六二条の表見代表取締役の規定を適用して判断することの可否。
民法112条,商法262条,民訴法186条
判旨
代表権のない取締役が会社を代表して行った手形行為について、相手方が当該取締役に代表権があると信じたことに正当な理由がある場合には、商法262条(現行会社法354条)に基づき会社はその責任を負う。また、当事者が主張した事実に対する法的評価(法条の適用)は裁判所の専権に属し、当事者の法的見解に拘束されない。
問題の所在(論点)
1.代表権のない取締役による手形振出行為について、会社法354条(旧商法262条)の表見代表取締役の規定を適用して会社の責任を認めることができるか。2.当事者が主張した法的構成(民法112条等)と異なる法条(商法262条)を裁判所が適用することは許されるか。
規範
会社は、代表権のない取締役に社長、副社長その他会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う(会社法354条)。また、当事者が主張する事実に対し、どの法条を適用して法的判断を下すかは裁判所の職権に属する事項であり、当事者が示した法的構成に拘束されるものではない。
重要事実
訴外Dは、かつて上告会社の代表取締役であったが、その後辞任し常務取締役となった。Dは取締役在任中、上告会社の業務をすべて掌握していた。Dは代表取締役ではない期間(昭和32年1月10日)に、上告会社を代表して被上告人に対し約束手形を振り出した。被上告人は、手形振出当時もDが代表取締役であると信じており、そのことについて正当な理由があった。被上告人は第一次的に振出人責任、第二次的に「民法112条の表見代理」等を主張したが、原審は「商法262条(表見代表取締役)」に基づき会社の責任を認めた。
あてはめ
1.事実関係によれば、Dは常務取締役として業務を掌握しており、被上告人がDに代表権があると信じたことには正当な理由がある。このような状況下での手形振出は、表見代表取締役の規定を適用すべき事案といえる。2.被上告人は主張事実の中で、Dに代表権があると信じた正当な事由を主張している。この事実に対し、裁判所が商法262条を適用して支払責任を認めることは、当事者の法的見解に拘束されない裁判所の権限の範囲内である。上告人が主張する商法12条(不実登記の過失)の適用を否定した原審の判断も、認定事実に照らし妥当である。
結論
代表権のない取締役が行った手形振出について、表見代表取締役の要件を満たす以上、会社は手形金の支払責任を負う。原判決が当事者の主張する条文と異なる条文を適用した点に違法はない。
実務上の射程
1.表見代表取締役の規定は手形行為にも適用されることを確認した。2.「主張事実に対する当事者の法的見解について裁判所は拘束されない」という法格言(法は裁判所が知る)の実務的運用を示しており、当事者の構成が不適切でも事実さえ主張されていれば裁判所が救済し得ることを示す。
事件番号: 昭和26(オ)652 / 裁判年月日: 昭和29年3月23日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】代表取締役の代理権消滅後にされた手形裏書について、相手方がその事実を知らなかった場合には、会社法上の表見代表規定等の類推適用により、会社はその責任を免れることができない。 第1 事案の概要:上告人(会社)は、被上告人会社から手形の裏書譲渡を受けた。しかし、当該裏書を行ったDは、裏書当時すでに被上告…