商法第二六五条の主張につき釈明権不行使の違法がないとされた事例。
判旨
取締役による債務引受けの実質を持つ手形振出について、原審で主張・認定されていない事実を前提に商法265条(現行会社法356条1項3号)の利益相反取引該当性を主張することはできない。また、署名のない手形が後に白地補充権の行使により有効となったという事実がない限り、補充権に関する議論は前提を欠く。
問題の所在(論点)
1. 原審で主張・認定されていない「取締役による債務引受けの実質を持つ手形振出」という事実に基づき、上告段階で利益相反取引の規定違反を主張できるか。 2. 署名のない手形について、事実上の認定がないまま白地補充権の行使による有効性を争点にできるか。
規範
株式会社の取締役が、第三者の債務を引き受ける実質をもって手形を振り出す行為が利益相反取引(会社法356条1項3号参照)に該当するか否かは、当該行為がなされた当時の具体的な事実関係(振出人の地位や債務引受けの実態等)の主張・立証を前提に判断される。また、手形法上の責任は、有効な署名または記名押印の存在を前提とする。
重要事実
上告人は、Dが本件手形の振出当時に振出人であるE株式会社の取締役であったこと、および本件手形の振出が第三者(千葉)の債務を引き受ける実質をもってなされたことを理由に、商法265条(現行の利益相反取引規制に相当)の適用を主張した。しかし、これらの事実は原審(控訴審)において主張も認定もされていなかった。さらに、振出当時、上告人個人の署名や記名がない状態であった本件手形につき、白地補充権の行使によって有効になったとの事実も原判決では示されていなかった。
あてはめ
1. 利益相反取引の主張について、Dが取締役であることや債務引受けの実質があるという点は、原審で全く主張・判断を経ていない事項である。裁判所は、事実審で提出されなかった新事実を前提とした釈明権不行使や審理不尽の訴えは採用できないと判断した。 2. 手形の有効性について、原判決は上告人の署名がない手形が白地補充によって有効となったという事実を認定していない。したがって、補充権行使を前提とする上告人の論難は、その前提を欠くものである。
結論
原審で主張・認定されていない事実に基づく利益相反取引の主張や、認定のない白地補充に関する主張は、いずれも上告理由として採用できず、本件上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、利益相反取引の成否には具体的な役職や取引の実質といった事実認定が不可欠であることを示唆している。司法試験においては、会社法356条の適用を論じる際、単に形式的な手形振出だけでなく、その背後にある債務引受け等の実質的関係を事実から拾い、利益相反性を基礎づけることの重要性を確認する資料となる。また、手形行為の有効性については、まず署名の有無という形式的事実を確認すべきという実務的順序を示している。
事件番号: 昭和38(オ)306 / 裁判年月日: 昭和39年6月12日 / 結論: 棄却
当事者が民法第一一二条の表見代理による約束手形金の支払請求を主張している場合であっても、商法第二六二条の要件事実が主張されている以上、同条の表見代表取締役の行為による会社に対する責任に基づいて、請求を認容することに違法はない。