判旨
手形振出人が記名捺印をなすに際し、現実に誰が記名捺印の事務を行ったかという事実は、振出人の意思に基づきなされたものである限り、手形上の責任を確定する上で必要不可欠な判示事項ではない。
問題の所在(論点)
手形振出の有効性を判断するにあたり、振出人の意思に基づく記名捺印であると認定される場合に、現実に記名捺印の事務を行った者の氏名や素性を特定して判示する必要があるか(手形振出の事実認定の要否)。
規範
手形行為が有効に成立するためには、当該手形が振出人の意思に基づいて作成されたことが必要である。その際、記名捺印という事実行為が振出人本人によってなされたか、あるいはその機関や補助者等の第三者によってなされたかは問わない。したがって、振出人の意思に基づいているという事実が認定されれば、現実に誰がその事務を執行したかを特定しなくても、手形法上の責任を肯定するに足りる。
重要事実
上告人(被告)は、本件手形の振出人として記載されているDと受取人Eとの間の融通手形に関する話し合いの内容や、振出人の記名捺印が現実に誰によってなされたかが確定されていないと主張した。原審は、本件手形がいずれもDの意思に基づいて記名捺印されたものであると認定したが、具体的な記名捺印の実行者までは特定していなかった。上告人は、この事実認定の不備を理由不備の違法として上告した。
あてはめ
本件において、原審は証拠の取捨選択に基づき、本件手形がDの意思に基づいて作成されたものであるという主要事実を認定している。手形法上、記名捺印は本人の意思に基づくものであれば足り、誰がDの「機関」として現実に手を動かしたかは、本人の意思による作成を基礎付けるための補助的な事情に過ぎない。したがって、実行者の氏名を具体的に確定しなくても、Dの意思に基づく作成という認定があれば、手形債務の発生を肯定する論理に欠けるところはない。
結論
本人の意思に基づきなされた記名捺印であれば、現実の行為者が誰であるかを特定する必要はない。原判決に理由不備の違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
手形署名の代行や機関による作成が争点となる事案において、立証の核心が「本人の意思に基づく作成」にあることを示す。実務上、具体的に誰が印鑑を押したか不明であっても、管理状況等から本人の意思に基づくと推認できれば足り、無理に実行者を特定する必要がないことを論証する際に有用である。
事件番号: 昭和40(オ)317 / 裁判年月日: 昭和41年12月15日 / 結論: その他
前任の代表者名義を用いてなされた手形振出行為を有効とした判決において、当該手形署名が代表権限ないし代理権限ある何びとによつてなされたものかの認定判示が明確でないときには審理不尽、理由不備の違法がある。