前任の代表者名義を用いてなされた手形振出行為を有効とした判決において、当該手形署名が代表権限ないし代理権限ある何びとによつてなされたものかの認定判示が明確でないときには審理不尽、理由不備の違法がある。
前任の代表者名義でなされた手形行為を有効とした判決に審理不尽理由不備の違法があるとされた事例
手形法8条,民訴法395条1項6号
判旨
法人の代表者が前任者名義で手形振出行為を行った場合や、第三者が権限に基づき前任者名義で行った場合などの具体的態様を明らかにすることなく、直ちに当該手形振出を有効と解することはできない。
問題の所在(論点)
手形の振出人欄に表示された代表者が、振出当時の真実の代表者と異なる場合において、当該手形行為が有効に成立したと認めるために必要な事実認定の要件が問題となる。
規範
法人の手形行為において、振出人欄に表示された代表者が真実の代表者と異なる場合、当該行為が有効な代表権・代理権の行使といえるかを判断するためには、①現実の行為者が誰であるか、②その者に代表権・代理権があるか、③その者が前任者名義を用いた経緯、④退任・就任登記の有無等の事実関係を明確に認定する必要がある。これらを欠いたまま有効性を認めることは、理由不備または理由齟齬の違法を構成する。
重要事実
上告人(組合)は、第一審相被告らと共同で本件約束手形4通を振り出した。そのうち1通の手形について、振出当時に表示されていた代表者Fは既に退任しており、真実の代表者はGであった。第一審および原審は、代表者名義が異なっている事実を認めながらも、具体的な行為者や権限の有無を詳細に検討することなく、直ちに当該手形振出行為を無効とすべきではない(有効である)と判断した。
あてはめ
原判決は、Fが代表者として表示されているが、実際にはGが代表者であった事実を認定している。しかし、現実の振出人が退任後のF自身なのか、当時の代表者GがF名義を用いたのか、あるいは第三者が権限に基づきF名義で作成したのかが不明である。また、代表者変更の登記の有無も判然としない。これらの点、すなわち「何びとが如何なる権限に基づき」行為したかが不明確なまま、直ちに有効と結論付けることは論理的整合性を欠く。
結論
原判決には審理不尽、理由不備ないし理由齟齬の違法がある。したがって、当該手形金請求に関する部分を破棄し、原審に差し戻す。
実務上の射程
手形法上の記名捺印の有効性が争われる場面で、表示された代表者と実際の権限者が異なる場合の認定手法として機能する。答案上は、顕名の妥当性や代表権の濫用、あるいは表見代表理事の成否を検討する際の前段階として、現実の行為者と権限の有無を厳格に特定すべきとする審理指針として引用できる。
事件番号: 昭和34(オ)1067 / 裁判年月日: 昭和36年6月20日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】手形振出日当時の商号と手形上の名宛人の表示が矛盾している場合、特別な事情のない限り、事実認定に理由不備または理由の食い違いがあるものとして、判決を維持することはできない。 第1 事案の概要:1. 被上告会社は、昭和29年4月15日に旧商号(株式会社D)から現在の商号(B株式会社)へ変更した。2. …