会社名義で振り出された約束手形につき、手形面上に会社代表者として表示されている者に代表権はあるが、右代表者の記名押印をした者に代表権がない場合であつても、会社が後者に対して常務取締役等会社を代表する権限を有するものと認められる名称を与えており、かつ、手形受取人が右後者の代表権の欠缺につき善意であるときは、右後者が自己の氏名を手形面上に表示した場合と同様、会社は手形金支払の責を負うものと解するのが相当である。
表見代表取締役が直接代表取締役の記名押印をして会社名義の約束手形を振り出した場合と商法第二六二条の適用の有無。
商法262条
判旨
表見代表取締役が、直接自己の氏名を現さず真実の代表取締役の名義を冒用して手形行為をした場合であっても、会社が当該取締役に名称の使用を許諾していた等の外観が存在し、相手方が善意であるときは、商法262条(現行会社法354条)が類推適用される。
問題の所在(論点)
代表権のない取締役が、自己の名称(表見名称)を一切表に出さず、真実の代表者の名義を直接用いて(代行の形式で)取引行為を行った場合に、会社法354条(旧商法262条)の責任を負うか。
規範
会社が取締役に対し、常務取締役等、会社を代表する権限を有するものと認められる名称の使用を許諾していた場合において、当該取締役が真実の代表取締役の名義を冒用(代行)して手形を振り出したときであっても、相手方がその代表権の欠缺につき善意であるならば、会社法354条(旧商法262条)の規定を類推適用し、会社はその責任を負うべきである。
重要事実
被告会社(被上告人)の取締役Dは、代表権はないものの、業務遂行上「常務取締役」の名称使用を許諾されていた。Dは、代表取締役Eの承認がある場合にはEの記名印等を用いて代行振出を行っていたが、本件手形についてはEの委任を受けず、直接Eの名義を用いて原告(上告人の前主)に交付した。原審は、手形面上にDの名称が表示されていないことを理由に表見代表取締役の成立を否定した。
あてはめ
Dは会社から「常務取締役」という代表権を示唆する名称の使用を許諾されており、会社法354条が想定する外観の作出に寄与していた。本件ではDが自己の氏名を名乗らず真実の代表者名義を冒用しているが、相手方がDに代表権がないことにつき善意であるならば、表見名称の付与によって生じた外観への信頼を保護する必要性は、直接自己の名義で署名した場合と何ら変わらない。したがって、相手方の善意を審理した上で、同条の適用(類推適用)を検討すべきである。
結論
表見名称の付与がある以上、代行形式による行為であっても会社法354条の責任は成立し得る。相手方の善意について審理を尽くさせるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
本判決は旧商法の事案であるが、現行会社法354条下でも維持される重要判例である。答案上は、(1)名称付与、(2)名称を付与された者による行為、(3)相手方の善意(重過失の有無)という要件を検討する際、(2)において「顕名」や「表見名称の直接使用」が必須ではないことを示す論拠として使用する。権利外観法理の趣旨から、帰責性と信頼保護の要件が満たされる限り、形式に拘泥せず適用を認めるべきとする文脈で活用する。
事件番号: 昭和37(オ)232 / 裁判年月日: 昭和39年9月15日 / 結論: その他
代理人が代理権の範囲を越えいわゆる署名代理の方法により振り出した約束手形について、受取人においてこれを本人みずから振り出した手形であると信じ、かつ、そのように信ずるにつき正当の理由があつたときは、本人は、民法第一一〇条の類推適用により、振出人としての責に任ずると解するのが相当である。