信用金庫法四〇条、商法四二条、三八条一項に基づく信用金庫の責任は、相手方が善意である限り、表見支配人のした行為の目的のいかんにかかわらず、これを免れないが、行為者の意図が自己の利益を図るにあり、かつ、相手方が右の意図を知り又は知りうべかりしときには、民法九三条但書の類推適用により、その責に任じない。
信用金庫の表見支配人が自己の利益を図るためにした行為と信用金庫の責任
信用金庫法40条,商法38条1項,商法42条,民法93条但書
判旨
表見支配人の行為について、その意図が自己の利益を図る目的(代理権濫用)にあり、相手方がその意図を知り、または知り得べきであった場合には、民法93条但書を類推適用して、本人はその責を負わない。
問題の所在(論点)
表見支配人の行為が自己の利益を図る目的でなされた場合(代理権濫用の場合)に、本人は民法93条1項但書の類推適用によって責任を免れることができるか。
規範
表見支配人のした行為が客観的・抽象的に見て営業に関する行為にあたる場合、原則として本人はその責を免れない。もっとも、表見支配人の意図が自己または第三者の利益を図る目的(濫用)にあり、かつ、相手方がその意図を知り、または過失によって知らなかった場合には、民法93条1項但書の規定を類推適用し、本人はその行為について責任を負わないと解するのが相当である。
重要事実
被上告人(信用金庫)の支店において、表見支配人の地位にあった訴外Dが小切手の振出行為を行った。しかし、この振出行為はDが自己の利益を図る意図でなされたものであり、相手方(上告人)において、Dの右意図を知り、または知り得べき事情があったかが争点となった(原審は類推適用により被告の責任を否定し、本判決もこれを支持した)。
あてはめ
Dは表見支配人として、被上告人の営業に関する裁判外の一切の行為をする権限があるものとみなされる立場にあった。本件小切手の振出行為は、客観的・抽象的には支店の営業の範囲内といえる。しかし、Dの主観的意図は自己の利益を図ることにあった。これに対し、相手方がかかる濫用の意図を知り、または知り得べきであったと判断される場合には、心理留保の規定を類推することで、信義則上、本人は責任を負わないと解される。原審が確定した事実関係に基づき、相手方の悪意・有過失を認めて本人の責任を否定した判断は正当である。
結論
表見支配人の行為が代理権濫用にあたり、相手方がその意図につき悪意または有過失であるときは、民法93条1項但書の類推適用により、本人はその責を負わない。
実務上の射程
商法上の表見代理規定(表見支配人等)と代理権濫用法理の関係を整理する際に用いる。代理権濫用に関する基本判例の枠組みを、法定の包括的代理権が付与される表見支配人のケースにも及ぼしたものとして、答案上は要件検討の最後で責任を阻却する論法として活用する。
事件番号: 昭和41(オ)875 / 裁判年月日: 昭和42年7月6日 / 結論: 棄却
商法第二六二条は、第三者が代表権の欠缺について善意であるかぎり、表見代表取締役のした行為の目的のいかんにかかわらず適用され、行為者の意図が自己の利益を図ることにあつた場合においては、第三者がその意図を知り、または知りうべかりしときにかぎり、会社は、民法第九三条但書の提起を類推適用して、その責を免れることができるにすぎな…