信用金庫の表見支配人がその個人的な負債の返済資金を捻出するためあらかじめ資金の預入れがないのに先日付の自己宛小切手を振り出した場合であつても、右振出しは商法三八条一項にいう営業に関する行為にあたる。
信用金庫の表見支配人による先日付の自己宛小切手の振出しと商法三八条一項にいう営業に関する行為
商法38条1項
判旨
表見支配人の権限内にあるか否かは、当該行為を客観的・抽象的に観察して判断すべきであり、内部的な制限違反や先日付振出し等の特段の事情があっても、行為の性質自体が営業の範囲内であれば代理権の範囲に含まれる。
問題の所在(論点)
表見支配人(商法24条1項)の「営業に関する行為」の範囲を、行為者の主観的意図や具体的な振出態様(先日付・資金欠如等)を考慮して限定的に解釈すべきか、あるいは客観的に判断すべきか。
規範
商法24条(旧42条)1項にいう「営業に関する行為」にあたるか否かは、当該行為の性質・種類等を勘案し、客観的・抽象的に観察して決すべきである。内部的な権限制限や職務上の義務違反、権限濫用の意図の存在は、客観的な代理権の範囲を否定する材料にはならない。ただし、相手方が背任的意図を知っていた場合は、民法93条1項但書の類推適用により無効となり得る。
重要事実
信用金庫の支店長Dは、自己の負債返済のため、資金の預入れがないにもかかわらず先日付の自己宛小切手を振り出し、知人Fに交付した。信金内部では資金預入れがある場合にのみ振出権限が付与されていた。その後、Fから小切手を取得した上告人が信金に対し支払を求めたが、信金側は「資金預入れのない先日付小切手の振出しは営業に関する行為に含まれず、Dに権限はない」と主張して争った。
あてはめ
自己宛小切手の振出しは、信用金庫法に基づく業務に付随する業務として、客観的には信用金庫の営業範囲に属する行為である。Dが「資金預入れがない」状態で「先日付」で振り出した事実は、内部的な職務義務違反や権限濫用の意図を推測させる事情にすぎない。これら個別具体的な事情によって、行為の客観的な性質が変わるものではないため、Dの行為は「営業に関する行為」として表見支配人の権限範囲内に属するといえる。
結論
Dによる小切手の振出しは客観的に「営業に関する行為」にあたり、信金は原則として責任を負う。Fが悪意であれば民法93条1項但書により無効となり得るが、転得者である上告人との関係では、上告人がFの悪意を知っていた(小切手法22条但書)場合を除き、信金は責任を免れない。
実務上の射程
会社法13条(表見支配人)の規定においても同様の枠組みが維持されている。答案では「客観的・抽象的」というキーワードを用い、主観的な事情(濫用)は代理権の範囲ではなく、民法93条1項但書類推適用の段階で検討するという二段構えの論理構成をとる際に必須の判例である。
事件番号: 昭和53(オ)1272 / 裁判年月日: 昭和54年3月8日 / 結論: 棄却
共同代表取締役甲・乙及び他の役員らの間で、会社が預け入れた当座預金払出しのための小切手振出しにつき甲が乙に一切の権限を委任し、右委任に基づき乙が単独で会社の代表者として右小切手を振り出すことを合意したなど判示の事実関係のもとでは、甲の乙に対する右委任及びこれに基づいて乙が単独でした右小切手振出しに関する代表行為は、共同…