共同代表取締役甲・乙及び他の役員らの間で、会社が預け入れた当座預金払出しのための小切手振出しにつき甲が乙に一切の権限を委任し、右委任に基づき乙が単独で会社の代表者として右小切手を振り出すことを合意したなど判示の事実関係のもとでは、甲の乙に対する右委任及びこれに基づいて乙が単独でした右小切手振出しに関する代表行為は、共同代表の定めに反しない。
共同代表取締役の一人に対し他の共同代表取締役がした当座預金払出しのための小切手振出権限の委任及びこれに基づく小切手の振出しが共同代表の定めに反しないとされた事例
商法261条2項
判旨
共同代表の定めがある場合でも、一人の代表取締役が他の代表取締役に対し、特定の取引行為についてその権限を包括的に委任し、これに基づき単独で代表行為を行うことは、共同代表の定めに違反せず有効である。
問題の所在(論点)
共同代表の定めがある株式会社において、一人の代表取締役が他の代表取締役に対し、特定の事務(小切手の振出し)について代表権を包括的に委任し、これに基づいて単独で行われた代表行為の効力が、商法261条(現行会社法349条4項)に違反し無効となるか。
規範
共同代表の定め(会社法349条4項参照)がある場合、代表取締役が他の代表取締役に対して特定の取引範囲(例:特定の預金口座に係る小切手振出等)につきその権限を委任し、受任した代表取締役が単独で代表行為を行うことは、共同代表の定めの趣旨に反しない限り、有効な代表権の行使として認められる。
重要事実
上告会社には、D及びCの2名の代表取締役がおり、共同代表の定めが置かれていた。上告会社と被上告人(銀行)との間で当座勘定取引契約を締結した際、役員間での合意に基づき、DはCに対し、当該当座預金を払い出すための小切手振出に関する権限を一切委任した。被上告人もこの合意を了承していた。その後、Cは当該委任に基づき、単独で上告会社を代表して本件小切手を振り出した。
あてはめ
本件では、共同代表者の一人であるDが、特定の当座預金口座からの払出しという限定された範囲の行為について、他の共同代表者であるCに権限を委任している。この委任は、役員間の合意及び相手方である被上告人の了承の下で行われたものである。このような特定の事務範囲における権限の委任に基づく単独の代表行為は、共同代表制の目的を直ちに害するものとはいえず、共同代表の定めに違反する無効なものとは解されない。
結論
代表取締役Cが、共同代表者Dからの委任に基づき単独で行った小切手振出行為は有効であり、上告会社はその責任を負う。
実務上の射程
共同代表制の下での個別的・具体的な事務の委任の有効性を認めた射程の長い判例である。答案上は、原則として共同で行うべき代表権行使について、実務上の必要性や特定の取引に関する合意がある場合には、例外的に単独行使が有効となり得る根拠として活用する。ただし、包括的すぎる丸投げ的委任が許されるかについては慎重な検討を要する。
事件番号: 昭和53(オ)166 / 裁判年月日: 昭和54年5月1日 / 結論: 破棄差戻
信用金庫の表見支配人がその個人的な負債の返済資金を捻出するためあらかじめ資金の預入れがないのに先日付の自己宛小切手を振り出した場合であつても、右振出しは商法三八条一項にいう営業に関する行為にあたる。