判旨
当座勘定規定等における免責特約は、銀行が印影の照合において相当の注意を用い、かつ印鑑の盗用・偽造等の事実を知ることができなかった場合に限り、その損失を預金者負担とする趣旨である。本特約は印影照合以外の善管注意義務を一切免除するものではなく、銀行側に過失がない場合にのみ適用される。
問題の所在(論点)
銀行の当座勘定規定等に置かれる「印影照合による免責特約」の解釈が問題となる。具体的には、当該特約が印影照合さえ行えば他のすべての注意義務を免除し、偽造小切手による損失を当然に預金者に転嫁できる趣旨か、あるいは銀行に一定の注意義務(過失の欠如)を要求する趣旨かが争点となった。
規範
当座貸越や小切手支払に関する免責特約(印影照合特約)の効力は、銀行が届出印鑑と小切手上の印影を照合し、相当の注意を用いてもなお印鑑の盗用・偽造・変造を知ることができずに支払った場合に限定される。この特約は、銀行に課されるべき善良なる管理者の注意義務のうち、印影照合に関連する範囲での責任分配を定めたものであり、それ以外の一般的な注意義務を当然に全て免除するものではない。
重要事実
預金者(上告人)の振出名義である当座小切手が、印鑑の盗用または偽造等によって作成された。銀行(被上告人)は、届出印鑑と小切手上の印影を照合し、相違ないと認めて支払を実行した。当該当座勘定約定には、銀行が印影を照合して支払った場合は、たとえ偽造等であってもその損失を預金者負担とする旨の特約、および当座貸越が生じた場合の利息支払条項が存在した。預金者は、銀行が印影照合以外の注意義務を怠ったと主張して争った。
あてはめ
原審の事実認定によれば、本件免責特約は銀行に対し印影照合以外の一切の注意義務を免除する趣旨ではない。具体的には、銀行が「相当の注意を用い、しかも(偽造等の事実を)知ることができないで支払ったとき」に限り、預金者に損失を負担させるものと解される。本件において、銀行側が相当の注意を欠いた、あるいは偽造を知り得たといった特段の事情は認められず、適法な証拠に基づき銀行側の注意義務違反は否定された。また、当座貸越に関する利息支払条項も合意に基づき有効であると判断される。
結論
本件免責特約により、銀行が相当の注意を尽くして印影照合を行い、偽造を知ることができなかった以上、支払による損失は預金者の負担となる。したがって、銀行側の責任を否定し、貸越元利金の支払を命じた原判決は正当である。
事件番号: 昭和43(オ)33 / 裁判年月日: 昭和46年7月1日 / 結論: 棄却
他行小切手による当座預金への入金は、当該小切手の取立委任と、その取立完了を停止条件とする当座預金契約であるから、受入金融機関は、特別の約定がないかぎり、他行小切手の取立完了前においては、当該小切手の金額に見合う当座支払の義務を負わないものと解すべきである。
実務上の射程
銀行取引約定書や当座勘定規定における免責特約の有効性と限界を示す。答案上は、特約があっても「銀行に過失がある場合(相当な注意を欠く場合)」には免責されないことを明示するための根拠として活用する。民法478条(受領権者としての外観を有する者への弁済)の議論と並行して、契約上の責任分配ルールを画定する際に参照すべき判例である。
事件番号: 昭和42(オ)64 / 裁判年月日: 昭和46年6月10日 / 結論: 破棄差戻
一、銀行が、当座勘定取引契約に基づき、届出の印鑑と手形上の印影とを照合するにあたつては、銀行の照合事務担当者に対して社会通念上一般に期待されている業務上相当の注意をもつて慎重に行なうことを要し、右事務に習熟している銀行員が右のような注意を払つて熟視するならば肉眼で発見しうるような印影の相違が看過されて偽造手形が支払われ…