破産法一〇四条二号の規定に違反してされた相殺を有効とする合意は、破産管財人と破産債権者との間でされた場合であつても、特段の事情のない限り無効である。
破産法一〇四条二号の規定に違反してされた相殺を有効とする破産管財人と破産債権者との合意の効力
破産法104条
判旨
破産法上の相殺禁止規定は、債権者間の実質的平等を図る強行規定であり、破産管財人と破産債権者との間でこれに反する相殺を有効とする合意がなされても、特段の事情がない限り無効である。
問題の所在(論点)
破産者が支払停止に陥ったことを知って負担した債務を受働債権とする相殺(相殺禁止事由)について、破産管財人と債権者との間でこれを有効と認める合意をした場合、当該合意は有効か。
規範
破産法における相殺禁止規定(旧法104条2号、現行法71条1項2号等)は、債権者間の実質的平等を確保することを目的とする強行規定である。したがって、その効力を排除し、禁止される相殺を有効とする当事者の合意は、たとえ破産管財人と破産債権者との間でなされたとしても、特段の事情のない限り無効である。
重要事実
銀行(被上告人)は、取引先Dの支払停止を知った後、Dの取引先から振り込まれた資金を「別段預金」として受け入れた。これにより銀行はDに対し預金債権(受働債権)を負担した。銀行は、支払停止前から有していた手形貸付金債権(自働債権)に基づき、上記預金債権と相殺する旨の意思表示をした。その後、Dに破産宣告がなされ、選任された破産管財人(上告人)との間で、銀行が根抵当権を抹消する代わりに、管財人は本件相殺を有効と認めて預金払戻請求をしない旨の合意が成立した。管財人は後にこの合意に反し、預金の支払を求めて提訴した。
あてはめ
銀行が別段預金を受け入れたのはDの支払停止を知った後であり、これにより負担した債務を受働債権とする本件相殺は、破産法104条2号(当時)の禁止規定に抵触する。同規定は、一部の債権者が相殺を通じて他の債権者に優先して債権回収を図ることを防ぎ、債権者間の実質的平等を維持するための強行規定である。本件において、管財人と銀行との間で相殺を有効とする旨の合意がなされているが、強行規定の趣旨を潜脱することは許されない。他に「特段の事情」も認められない以上、当該合意は無効であり、相殺の効力も否定されるべきである。
結論
本件相殺は無効であり、破産管財人と破産債権者との間の有効とする合意も無効であるため、管財人による預金払戻請求は認められる。
実務上の射程
破産管財人による相殺禁止規定の援用放棄の可否に関する重要判例である。管財人は破産財団の増殖を図る職責を負うが、同時に債権者間の平等原則という強行法規に拘束されるため、安易な相殺合意は無効とされるリスクがあることを示す。答案では、相殺禁止規定の趣旨(平等原則)を強調する文脈で使用する。
事件番号: 昭和58(オ)1272 / 裁判年月日: 昭和62年7月17日 / 結論: 棄却
銀行が手形に押捺された印影と取引先の届出印鑑とを相当の注意をもつて照合し符合すると認めて取引したときは手形の偽造等によつて生じた損害については取引先が責任を負う旨の銀行取引約定書一〇条四項の規定は、銀行が第三者との与信取引によつて取得した取引先振出名義の約束手形には適用がないものと解するのが相当である。