転付債権者に転付された債務者の第三債務者に対する甲債権と第三債務者の転付債権者に対する乙債権との相殺適状が甲債権と第三債務者の債務者に対する丙債権との相殺適状より後に生じた場合であつても、第三債務者が丙債権を自働債権とし甲債権を受働債権とする相殺の意思表示をするより先に、転付債権者の甲債権を自働債権とし乙債権を受働債権とする相殺の意思表示により甲債権が消滅していた場合には、第三債務者による右相殺の意思表示はその効力を生じない。
転付債権者・第三債務者間の債権債務の相殺適状は債務者・第三債務者間の債権債務の相殺適状より後に生じたが転付債権者の相殺の意思表示が第三債務者の相殺の意思表示より先にされた場合と相殺の優劣
民法505条1項,民法506条
判旨
相殺適状は意思表示の時点で現存する必要があり、一方の債権が先にされた相殺の意思表示によって消滅した後は、他方がこれより先に相殺適状にあったとしても重ねて相殺することはできない。
問題の所在(論点)
互いに相殺し得る複数の債権が存する場合において、先にされた相殺の意思表示に対し、後からされた相殺の意思表示は、その後者の相殺適状が先行していたことを理由として対抗できるか(民法505条、506条の解釈)。
規範
相殺適状は、原則として相殺の意思表示がされた時に現存することを要する。したがって、一旦相殺適状が生じていても、意思表示がされる前に一方が消滅(弁済、代物弁済、更改、相殺等)した場合には、民法508条の例外を除き、相殺は許されない。第三債務者が差押債権者に対し反対債権による相殺権(民法511条)を有する場合であっても、現に相殺の意思表示をするまでは、転付債権者が取得した債権を自働債権として行う相殺権の行使は妨げられない。
重要事実
上告人は、D社の被上告人(銀行)に対する預金債権を差し押さえ、転付命令を得た。上告人は、この転付債権を自働債権、自らが被上告人に対して負う手形金債務を受働債権として、昭和51年6月14日に相殺の意思表示をした。これに対し、被上告人は同年6月21日、自らのD社に対する貸付金債権を自働債権、上記預金債権を受働債権として相殺の意思表示をした。被上告人側の相殺適状(昭和50年12月2日)は上告人側の相殺適状(昭和51年3月26日)より早かったが、意思表示は上告人が先であった。
あてはめ
本件では、上告人による相殺の意思表示(6月14日)が、被上告人による意思表示(6月21日)よりも先に行われている。上告人の相殺によって受働債権(被上告人の手形金債権)および自働債権(預金債権)が相殺適状となった3月26日に遡って対当額で消滅した以上、その後に被上告人が相殺を主張しても、既に消滅した預金債権を受働債権として相殺することはできない。被上告人の相殺適状が上告人のそれに先行していたとしても、現実に相殺の意思表示がなされるまでは上告人の相殺権行使を妨げる理由にはならない。
結論
上告人の相殺の意思表示が先行している以上、被上告人は先行する相殺適状を理由に上告人の相殺を排斥することはできず、上告人の相殺の抗弁は認められる。
実務上の射程
相殺の「早い者勝ち」原則を明確にしたもの。実務上、複数の相殺が競合する場合や差押債権者と第三債務者の相殺権が対立する場合、意思表示の先後が決定的な重要性を持つことを示す。答案では、相殺の遡及効(民法506条2項)があっても、既になされた有効な相殺を覆すことはできないという論理で使用する。
事件番号: 昭和53(オ)1375 / 裁判年月日: 昭和54年10月12日 / 結論: 破棄差戻
支払延期のため旧手形がこれを回収せずに新手形に書き替えられた場合に、新旧両手形の所持人となつた者が新手形を書替手形と知つて取得した悪意の取得者であるときは、右所持人は、いずれか一方の手形の支払を受けたのちに、振出人に対し重ねて他方の手形の支払を求めることはできない。