判旨
相殺の効力が生じるためには、相殺の意思表示の中に具体的な自働債権が含まれていることが必要であり、意思表示の対象となっていない債権について相殺の効力を認めることはできない。
問題の所在(論点)
相殺の意思表示において明示的または黙示的に示されていない債権について、相殺の効力を主張し、裁判所がこれを認めることができるか。
規範
相殺(民法505条1項)の効力が発生するためには、相殺適状にある債権について、具体的に相殺の意思表示(同506条1項)がなされることを要する。当事者が主張していない債権、または意思表示の範囲に含まれていない債権を、裁判所が相殺の対象として扱うことはできない。
重要事実
上告人は、相手方の手形金債務と自己の有する債権を相殺する旨を主張した。しかし、上告人が主張する損害賠償債権および不当利得返還請求権(価格差金等)については、本件相殺の意思表示の中には含まれておらず、また別途相殺の意思表示がなされた事実も認められなかった。
あてはめ
本件において、上告人が主張する価格差金に係る損害賠償債権および不当利得返還請求権は、上告人自身が行った相殺の意思表示の対象に含まれていないことが原審の口頭弁論調書等により明らかである。したがって、これらの債権に基づき手形金債務が消滅したと解する余地はない。
結論
相殺の意思表示に含まれていない債権については、相殺による債務消滅の効力は認められない。上告棄却。
実務上の射程
相殺の抗弁を提出する際、自働債権を特定して意思表示を行う必要があるという当然の理を示したものである。答案上は、予備的相殺の抗弁などで複数の債権を充当する順序や範囲を明確に主張すべきであることを裏付ける事実認定上の基礎となる。
事件番号: 昭和31(オ)590 / 裁判年月日: 昭和32年11月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】約束手形の振出人が受取人との間の人的抗弁(特約)をもって第三者である所持人に対抗するためには、当該所持人が手形取得の当時、その特約の存在を知っている必要がある(手形法77条、17条)。 第1 事案の概要:上告人(振出人)は、受取人であるDとの間で手形に関する特定の特約を結んでいた。その後、被上告人…