判旨
受取人欄が未記載のまま交付された約束手形であっても、補充権が付与されている限り、白地約束手形として有効である。また、振出人が受取人から手形を回収して返還すべき義務を負わせた事実は、第三者である所持人に対する人的抗弁にすぎず、特段の事情がない限り支払を拒めない。
問題の所在(論点)
受取人欄が未記載である約束手形(白地約束手形)は有効か、また振出人が前主に対して有する「手形を回収・返還すべき合意」という抗弁を所持人に対抗できるか。
規範
手形法10条は、手形要件の記載が未完成のままで交付された手形であっても、他人に補充権が与えられたものである限り、その欠缺の程度や態様を問わず有効とする趣旨を含む。これは同法77条2項により約束手形にも準用され、受取人欄が白地である場合も同様である。また、手形債務者が訴外の者(前主等)に対して有する手形返還義務等の抗弁は、人的抗弁(同法17条、77条)としての性質を有し、善意の所持人に対しては対抗し得ない。
重要事実
上告人は、受取人欄を白地とした約束手形を振り出し、これを訴外株式会社D鋳工所に交付した。その後、本件手形は被上告人へと譲渡された。上告人は、D鋳工所が上告人に対して本件手形を被上告人から回収して返還すべき義務を負っていたことを理由に、被上告人からの手形金請求を拒絶した。また、受取人欄が欠缺していることをもって手形の無効を主張した。
あてはめ
まず、本件手形は受取人欄が未完成であるが、補充権が与えられた白地手形として手形法10条、77条2項に基づき有効である。次に、上告人が主張する「D鋳工所が手形を回収して返還すべき義務」は、上告人とD鋳工所との間の内部的な合意に基づく人的抗弁にすぎない。被上告人が悪意である等の特段の事情がない限り、手形法17条により、上告人はこの人的抗弁をもって所持人である被上告人に対抗することはできず、支払を拒むことはできない。
結論
受取人欄が白地の約束手形は有効であり、上告人は被上告人に対し、前主との間の回収義務の存在をもって支払を拒めない。
実務上の射程
白地約束手形の有効性を確認する基礎的な判例である。答案上は、受取人白地手形の有効性を論じる際に手形法10条・77条2項の根拠として引用する。また、返還義務等の合意が人的抗弁にすぎず、切断の対象となることを示す際にも有用である。
事件番号: 昭和29(オ)220 / 裁判年月日: 昭和31年7月20日 / 結論: 棄却
株式会社を振出人とする約束手形による金融依頼のため、手形用紙に会社取締役が振出人として署名したが、受取人、金額、満期等の手形要件は白地とし、金融をえられることが確定した後会社監査役においてすべてこれを補充する約束で交付したときは、交付を受けた者が約束に反し右手形を他に譲渡し、転々途上において右白地要件が手形取得によつて…