判旨
将来負担すべき敷金債務の弁済のために振り出された手形について、原因関係である敷金予約関係が完結せず債務が成立していない場合、手形の振出人は受取人およびその裏書人に対し、原因関係の不存在を理由に支払を拒絶できる。
問題の所在(論点)
将来発生すべき敷金債務の弁済のために振り出された手形について、原因関係である予約が完結せず敷金債務が発生していない場合、振出人は手形金の支払義務を負うか。
規範
手形振出の原因となった法律関係が予約の段階に留まり、本旨たる債務が未だ成立していない場合には、手形債務の発生も否定されるか、あるいは人的抗弁として支払を拒絶し得る。特に敷金予約に基づいて振り出された手形は、敷金債務が具体的に発生することを停止条件とする性質を有し、条件未成就の間は権利行使が制限される。
重要事実
家屋賃貸人Dと賃借人である被上告人との間で、将来の敷金債務を担保するための敷金予約関係が成立した。被上告人はこの予約に基づき、将来負担すべき敷金債務の弁済のために本件手形を振り出し、Dに交付した。その後、Dは本件手形を上告人に裏書譲渡したが、この裏書の時点において、いまだ敷金予約関係は完結しておらず、具体的な敷金債務は成立していなかった。
あてはめ
本件において、被上告人が手形を振り出した目的は「将来負担すべき敷金債務の弁済」に限定されている。原審が認定した事実によれば、Dが上告人に裏書譲渡した当時、敷金予約関係は完結しておらず、本旨たる敷金債務は発生していない。原因関係における債務が成立していない以上、その弁済のために振り出された手形についても、振出人は債務の不存在を主張できる。したがって、被上告人は手形金支払義務を負わないとされる。
結論
敷金債務が発生していない以上、本件手形の振出人は支払を拒絶できる。上告棄却。
実務上の射程
手形の原因関係が「予約」に留まる場合の抗弁の有効性を認めた事例である。答案上は、手形法17条但書の悪意の抗弁や、原因関係の消滅・不発生を理由とする人的抗弁の構成において、原因関係が「将来の債務のための予約」であるという特殊性を指摘する際に活用できる。ただし、本判決は事実認定の妥当性を追認する形式であるため、具体的な抗弁の成否は裏書人の善意・悪意等の主観的要件と併せて論じる必要がある。
事件番号: 昭和28(オ)1191 / 裁判年月日: 昭和31年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】受取人欄が未記載のまま交付された約束手形であっても、補充権が付与されている限り、白地約束手形として有効である。また、振出人が受取人から手形を回収して返還すべき義務を負わせた事実は、第三者である所持人に対する人的抗弁にすぎず、特段の事情がない限り支払を拒めない。 第1 事案の概要:上告人は、受取人欄…