約束手形の受取人甲が、乙からその手形の割引を受け、裏書をしないでこれを乙に交付したときは、甲は、指名債権譲渡の方法によつて乙に右手形債権を譲渡したものと解するのが相当である。
裏書によらない手形債権の譲渡の性質
手形法11条,民法467条
判旨
手形の被裏書人が裏書を抹消せずに手形を返還した場合、その後の譲渡は指名債権譲渡の方法によることになり、譲受人は振出人が受取人に対して有する原因関係上の抗弁を、善意であっても遮断できない。
問題の所在(論点)
裏書が連続していない(前の裏書が抹消されずに返還された)手形を割引等で取得した者が、手形法上の権利取得者として人的抗弁の切断(手形法17条)を主張できるか、あるいは指名債権譲渡の法理により原因関係の抗弁を対抗されるか。
規範
手形の受取人が一旦裏書譲渡した手形の返還を受けた際、既になされた裏書の記載を抹消することなく第三者に交付した場合、その第三者及びそれ以降の取得者は、裏書によらず通常の指名債権譲渡の方法により権利を取得したものと解すべきである。この場合、手形法17条(人的抗弁の切断)の適用はなく、取得者は前者の権利を承継するにとどまるため、振出人は受取人に対する原因関係上の抗弁をもって、取得者の善意・悪意を問わず対抗することができる。
重要事実
振出人上告人は、受取人Dとの売買契約の代金前渡として本件手形を振り出した。DはG信用金庫へ裏書譲渡したが、後に返還を受けた際、Gへの裏書を抹消しないままH商事に割引に出した。その後、J石油、L石油を経て、被上告人が割引により取得した。被上告人は取得後にDの裏書の被裏書人欄(G)を抹消し、銀行に取立委任したが支払を拒絶された。なお、上告人とDとの売買契約は合意解除されていた。
あてはめ
Dから被上告人に至るまでの各取得者は、形式的に裏書の連続を欠く状態で交付を受けており、裏書による譲渡を受けたとは認められない。したがって、これらは指名債権譲渡の方法による取得に準じる。振出人上告人と受取人Dとの間の売買契約は合意解除されており、Dは上告人に対し手形金請求権を失っている。被上告人はDの権利を承継したに過ぎないため、被上告人がこの解除の事実について善意であったとしても、上告人は被上告人に対し、原因関係の消滅という抗弁をもって対抗できる。
結論
被上告人は、善意・悪意を問わず、上告人からの抗弁の対抗を受けるため、上告人に対して手形金の支払を請求することはできない。
実務上の射程
裏書不連続の手形取得に関するリーディングケースである。実務・答案上、手形法16条1項による権利推定が働かない場面において、指名債権譲渡の法理が適用され、手形法17条による善意者の保護(抗弁の切断)が否定される帰結を示す際に用いる。
事件番号: 昭和38(オ)330 / 裁判年月日: 昭和43年12月25日 / 結論: 棄却
自己の債権の支払確保のため約束手形の裏書を受けた手形所持人は、その後右債権の完済を受けて裏書の原因関係が消滅したときは、特別の事情のないかぎり、以後右手形を保持すべき正当の権原を有しないことになり、手形上の権利を行使すべき実質的理由を失つたものであつて、右手形を返還しないで自己が所持するのを奇貨として、自己の形式的権利…