銀行が手形に押捺された印影と取引先の届出印鑑とを相当の注意をもつて照合し符合すると認めて取引したときは手形の偽造等によつて生じた損害については取引先が責任を負う旨の銀行取引約定書一〇条四項の規定は、銀行が第三者との与信取引によつて取得した取引先振出名義の約束手形には適用がないものと解するのが相当である。
銀行取引約定書一〇条四項と銀行が第三者との与信取引によつて取得した取引先振出名義の約束手形
民法1編4章1節,手形法1編,手形法2編
判旨
銀行取引約定書におけるいわゆる免責条項は、銀行が第三者との手形割引等の与信取引(間接取引)によって取得した取引先振出名義の偽造手形には適用されない。与信取引においては、銀行が取引の可否を慎重に判断し得るため、簡易迅速な事務処理を目的とする免責規定を適用すべき合理的な必要性が認められないからである。
問題の所在(論点)
銀行取引約定書上の免責条項が、銀行が取引先以外の第三者との間接的な与信取引(手形割引等)によって取得した、取引先振出名義の偽造手形についても適用されるか。
規範
銀行取引約定書の免責条項(印影を届出印と相当の注意をもって照合して相違ないと認めたときは、偽造等の事故があっても取引先が責任を負う旨の規定)は、銀行が第三者との与信取引によって取得した取引先振出名義の手形については適用されない。かかる規定は多量の事務を簡易迅速に処理する必要がある場合に認められるべきであり、銀行が一経済人として利益や資力等を総合的に判断して慎重に取引を決し得る与信取引においては、右規定を適用すべき合理的な必要性が認められないためである。
重要事実
被上告人の妻Dは、被上告人の印章を管理していたが、弟Fに「迷惑をかけない」と言われ、Fが権限なく手形を振り出すことを知りながら印章を貸し出した。Fは本件手形を偽造してG社に交付し、上告人銀行はG社から手形割引によりこれを譲り受けた。上告人は、被上告人との銀行取引約定書10条4項(免責条項)に基づき、被上告人が手形上の責任を負うと主張して、被上告人の当座預金債権と手形金相当額を相殺すると主張した。
あてはめ
本件における上告人の手形取得は、取引先である被上告人との直接取引ではなく、第三者であるG社との間での手形割引という与信取引(間接取引)である。与信取引は、当座勘定取引における支払事務等とは異なり、銀行が事務処理を特に簡易迅速に行わなければならない性質のものではない。上告人は一経済人として、割引依頼人の資産状態や振出人の資力等を総合的に判断し、慎重に取引の可否を決定できる立場にある。したがって、このような間接的な与信取引の場面においてまで、取引先に偽造のリスクを転嫁する免責規定を適用すべき合理的な必要性は認められない。よって、本件約定10条4項の適用は否定される。
結論
本件免責条項は適用されず、被上告人は偽造手形について責任を負わないため、上告人による相殺の抗弁は認められない。
実務上の射程
銀行実務における免責規定の適用範囲を画した重要判例。直接の支払事務(窓口での払戻し等)と、手形割引等の与信取引を区別し、後者には原則として免責規定の適用を認めない。答案上は、約款の解釈として「合理的な必要性」の有無を基準に、取引の性質を論じる際に用いる。
事件番号: 昭和47(オ)111 / 裁判年月日: 昭和48年7月19日 / 結論: 破棄差戻
譲渡禁止の特約のある債権の譲受人は、その特約の存在を知らないことにつき重大な過失があるときは、その債権を取得しえない。