原判決の認定した事実関係(大阪高裁昭和三八年三月一八日判決、金融法務事情三六二号二九頁所収)のもとでは、本件預金契約は、上告人と被上告人との間に成立したものと認めるのが相当である。
預金契約の当事者の認定。
民法666条
判旨
預金契約において、預金者以外の第三者に対して行われた払戻について、当該第三者が預金者の機関や代理人とは認められず、かつ、債権の準占有者に対する弁済としての免責要件も満たさない場合には、銀行の弁済は有効とは認められない。
問題の所在(論点)
1. 預金の払戻を受けた第三者(D)が、預金者の機関又は代理人と認められるか。2. 当該第三者への払戻が、債権の準占有者に対する弁済(民法478条)として免責を認められるか。
規範
1. 預金契約の当事者は、契約締結の意思表示及び預金の拠出実態等に基づき決定される。2. 預金の払戻が有効な弁済となるためには、預金者本人、その正当な代理人、又は債権の準占有者(民法478条)に対する弁済であることを要する。3. 債権の準占有者に対する弁済として免責されるためには、弁済者が善意無過失であることが必要である。
重要事実
上告人(銀行)と被上告人との間で預金契約が成立した。その後、銀行は預入に関与した訴外Dらに対して預金の払戻を行った。銀行側は、Dが被上告人の機関や代理人であること、あるいはDらへの払戻が債権の準占有者に対する弁済として有効であることを主張して、預金返還義務の消滅を争った。
あてはめ
1. Dが預入に関与した事実は認められるが、その地位のみをもって払戻についての代理権が授与されたとは解せない。また、Dが被上告人の機関として行為したとも認められない。2. 準占有者に対する弁済の成否について、原審が認定した事実関係(詳細は判決文からは不明だが、Dらの受領権限の外観や銀行の注意義務違反の有無が検討されたものと推認される)に基づけば、免責を認めることはできない。
結論
Dらへの払戻は被上告人に対する有効な弁済とはならず、銀行の預金返還義務は消滅しない。したがって、上告は棄却される。
実務上の射程
預金払戻の有効性が争われる事案において、代理権の有無と準占有者への弁済の成否を切り分けて検討する枠組みを示す。実務上は、窓口での払戻時に本人確認や権限確認を怠った場合に、民法478条の適用が否定される判断指針として機能する。
事件番号: 昭和60(オ)1402 / 裁判年月日: 昭和63年10月13日 / 結論: 棄却
銀行総合口座取引において、銀行が権限を有すると称する者からの普通預金払戻請求に応じて貸越しをするにつき銀行として尽くすべき相当の注意を用いたときは、民法四七八条の類推適用により、銀行は、右貸越しによつて生じた貸金債権を自働債権とする定期預金債権との相殺をもつて真実の預金者に対抗することができる。