民法第一〇一三条の規程が適用される場合においても、第四七八条の規程が排除されるわけではない。
民法第一〇二三条と第四七八条との関係
民法478条,民法1013条
判旨
遺言執行者が指定されている場合であっても、取引の安全を図る見地から、債権の準占有者に対する弁済(民法478条)の適用は排除されない。
問題の所在(論点)
遺言執行者が存在する場合、民法1013条によって処分権限が制限されるため、民法478条(債権の準占有者に対する弁済)の適用は排除されるか。
規範
遺言執行者の権限(民法1013条)が及ぶ場合であっても、取引の安全を保護する観点から、受領権限のない者への弁済を有効とする債権の準占有者に対する弁済(民法478条)の規定は適用される。
重要事実
訴外Dが被上告人(銀行)に対し、本件預金の払戻しを請求した。これに対し被上告人は払戻しを実施したが、当該預金については遺言執行者が存在し、本来は遺言執行者が管理・処分権限を有するものであった。上告人は、遺言執行者がいる以上、民法1013条(当時の規定)により相続人の処分権が制限されるため、民法478条の適用はないと主張した。
あてはめ
民法478条は、真実の債権者でない者であっても、外観上受領権限があるように見える者に対して善意無過失で弁済した者を保護し、取引の安全を図る趣旨の規定である。遺言執行者の存在により相続人等の処分権が制限されるという民法1013条の規定は内部的な権限関係を定めるものであり、第三者との関係における取引の安全を犠牲にするものではない。したがって、銀行が債権の準占有者と信ずるに足りる正当な理由をもって払戻しを行った場合には、同条の適用が認められる。
結論
被上告人による払戻しは債権の準占有者に対する弁済として有効であり、民法1013条がある場合でも民法478条は排除されない。
実務上の射程
遺言執行者の妨害排除権等と取引安全の調整を示す重要な判例である。答案上では、遺言執行者の排他的権限を指摘しつつも、銀行等の善意の第三者を保護する文脈で、478条(現478条:受領権限のない者への弁済)を重ねて主張する際に用いる。
事件番号: 昭和54(オ)296 / 裁判年月日: 昭和54年9月25日 / 結論: 棄却
定期預金の期限前払戻を請求した者が、預金証書と届出印鑑を所持しているほか、年末資金として預金の一部を必要とすることと残額を再び預け入れることを申し入れ、払戻請求書に預金者の住所をほぼ正確に記載したなど原判示の事実関係のもとでは、払戻しをした銀行の係員に過失がなく、払戻は債権の準占有者に対する弁済として有効である。