村長が契約を締結にするにつき村議会の議決を経ているか否かに関し、相手方において右議決の有無を調査したことすら認め得ず、その他原判示の事実関係のもとにおいては、村長に右契約締結の権限ありと信ずるにつき正当の事由があるとはいえない。
村長に契約締結の権限ありと信ずるにつき正当の事由がないとされた事例。
地方自治法96条1項8号,民法110条
判旨
地方公共団体の長が議会の議決を経ずに締結した契約につき、相手方が長に権限があると信じたとしても、議決の有無を確認した事実すら認められない等の事情がある場合には、民法110条の「正当な理由」があるとは認められない。
問題の所在(論点)
地方公共団体の長が議決を経ていない契約を締結した場合において、相手方が長に権限があると信じたことに民法110条の「正当な理由」が認められるか、特に議決の有無を確認しなかったことがどのように評価されるかが問題となる。
規範
民法110条に基づき表見代理の成立が認められるためには、相手方が代理人にその権限があると信ずべき「正当な理由」が必要である。この「正当な理由」とは、相手方が代理権の欠缺について善意無過失であることを意味し、取引の態様や相手方の注意義務の程度に照らして客観的に判断される。
重要事実
a村の村長Dが、村議会の議決を要する性質の契約を上告人との間で締結した。しかし、実際には当該契約締結に際して議会の議決は得られていなかった。上告人は、D村長に契約を締結する権限があると信じて契約に及んだが、契約時に村議会の議決の有無を確認した事実は認められなかった。
あてはめ
上告人は、村長Dに権限があると信じていたと主張するが、契約締結という重要な局面において、村議会の議決という権限行使の前提条件を何ら確認していない。公法上の要格行為を伴う取引において、公的な手続の有無を全く調査・確認しないことは、取引上の注意義務を著しく欠くものといえる。したがって、仮に権限があると信じたとしても、そのように信ずるにつき「正当な理由」があるとは認められない。
結論
上告人に「正当な理由」は認められず、民法110条の表見代理は成立しないため、本件契約の効力は村に帰属しない。上告を棄却する。
実務上の射程
地方自治法上の議決を欠く契約の効力を争う場面での基礎的な判例である。行政主体との取引において、相手方が法律上の制限や内部手続の履践を確認すべき義務を負うことを示唆しており、単なる主観的な信頼だけでは110条の救済を受けられないことを強調する際に活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)178 / 裁判年月日: 昭和39年5月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が申し出た証拠が唯一の証拠方法である場合を除き、裁判所は審理の経過から必要がないと認めるときは、その取調べを要しない。また、売買契約の対象外である立木を、相手方代理人の不正な黙認を得て伐採する行為は不法行為を構成する。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人所有の山林から立木を買い受ける契約を…
事件番号: 昭和36(オ)377 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 破棄差戻
甲が乙所有の物件を権限なくして自己名義で丙に売り渡した場合には、丙において右物件が甲の所有であると信じ、かつそのように信じるにつき正当の事由があつても、表見代理の成立する余地はない。