判旨
ある者が会社の販売係や表見代理人の地位にあるとしても、その者が会社を代理する意図がなく、相手方もその者が個人として取引することを了承していた場合には、当該行為は会社の代理行為とは認められない。
問題の所在(論点)
商法43条(現14条)の支配人や表見代理の地位にある者が行った取引が、個人の資格で行われたものである場合、会社に対する代理行為の成立を主張できるか(顕名の欠如および代理意思の欠如の効力)。
規範
代理人が本人を代理する意思を持たず、自己のために個人取引として行為を行い、かつ、相手方がその者が個人として取引するものであることを了承(認識)していた場合には、その行為は代理行為としての法的性質を有さず、民法または商法上の代理の規定は適用されない。
重要事実
上告会社(買主)の取締役Dは、被上告会社(売主)の出張所販売係であるFとの間で、紡織機の売買契約を締結し内金を交付した。Fは被上告会社のためにすることを示さず(顕名なし)、自己の個人取引として売渡契約を行い、代金を受領した。相手方であるDも、Fが会社としてではなく個人として契約していることを了解していた。
あてはめ
Fは被上告会社の販売係であり、外見上は商法上の代理権を有する地位、あるいは表見代理が成立しうる地位にあった。しかし、本件事実によれば、Fは被上告会社を代理する意図を全く示さず、自己のために取引を行っている。また、相手方である上告会社の担当者Dも、Fが個人として契約することを「了承」していた。したがって、本件取引はFが被上告会社から与えられた権限や地位とは無関係な「個人取引」であり、代理行為には該当しないといえる。
結論
本件取引は代理行為ではなくFの個人取引にすぎないため、被上告会社(会社)に対してその責任を追及することはできない。
事件番号: 昭和36(オ)377 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 破棄差戻
甲が乙所有の物件を権限なくして自己名義で丙に売り渡した場合には、丙において右物件が甲の所有であると信じ、かつそのように信じるにつき正当の事由があつても、表見代理の成立する余地はない。
実務上の射程
顕名主義(民法99条)の原則を確認する事案。代理権の存在や表見代理の要件を検討する以前に、当事者双方が「個人間の取引」として認識している場合には、代理の法理が入り込む余地がないことを示す。答案上は、顕名の有無や代理意思の存否が争点となる場面での事実認定の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)618 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】商行為の代理人が本人(会社)のためにすることを表示しなかった場合でも、相手方がそれを知らなかったときは、商法504条但書により本人に対して効果が帰属するだけでなく、相手方は代理人個人に対しても履行を請求できる。 第1 事案の概要:被告(上告人)は、株式会社Dの代表取締役として売買契約を締結したが、…