米軍属による強姦致死,殺人,死体遺棄事件として管轄区域で大々的に報道され,当該区域の住民の中から裁判員を選任することになるなどの所論が主張する点(判文参照)は,管轄裁判所において公平な裁判が行われることを期待し難い事情とはいえず,刑訴法17条1項2号にいう「裁判の公平を維持することができない虞があるとき」に当たらない。 (補足意見がある。)
刑訴法17条1項2号にいう「裁判の公平を維持することができない虞があるとき」に当たらないとされた事例
刑訴法17条1項2号,刑訴法17条2項
判旨
米軍属による凶悪犯罪として地域住民の強い処罰感情や大々的な報道がある場合であっても、裁判員制度における選任手続や裁判員の義務等の制度的保障を鑑みれば、原則として「裁判の公平を維持することができない虞があるとき」(刑訴法17条1項2号)には当たらない。
問題の所在(論点)
米軍属による重大事件に対し、管轄区域内の住民(裁判員候補者)に強い処罰感情や予断が生じていることが、刑訴法17条1項2号にいう「裁判の公平を維持することができない虞があるとき」に該当するか。
規範
刑訴法17条1項2号にいう「裁判の公平を維持することができない虞があるとき」とは、裁判所を構成する者に不公平な裁判をするおそれがある具体的状況が存在し、制度的な運用によってもこれを回避できない場合を指す。裁判員裁判においては、公平・中立を確保する選任手続、裁判員の公平誠実義務、裁判長の配慮義務等の仕組みにより、法と証拠に基づく適正な裁判が制度的に十分保障されている。したがって、単に地域住民の予断や報道の過熱があることのみをもって直ちに同号の事由に当たると解すべきではない。
重要事実
米軍属である申立人が沖縄県内にて強姦致死、殺人等で起訴された。沖縄県内では米軍基地問題や日米地位協定と関連して本件が大々的に報道され、広範な抗議活動が行われた。申立人は、県民が自白内容等の報道を通じて有罪の心証や厳罰を求める予断を有しており、そのような県民から選任される裁判員による那覇地方裁判所での公判は公平を欠くとして、東京地方裁判所への管轄移転を請求した。
あてはめ
申立人が主張する報道の過熱や県民の予断は、裁判員制度の仕組みの下では「公平な裁判を期待し難い事情」とはいえない。裁判員は、具体的事件の証拠が提出される厳粛な「裁きの場」において、証拠に基づかない私的な感情や風評を排し、公平誠実に職務を遂行することが期待されている。沖縄県特有の事情や感情が存在したとしても、適正な選任手続と裁判官との協働により、法と証拠に基づく公正な裁判の実現は十分に信頼できる。よって、本件の状況は管轄移転を要するほどの具体的危険があるとは認められない。
結論
本件は刑訴法17条1項2号に当たらないため、管轄移転の請求を棄却する。
実務上の射程
裁判員裁判制度への信頼を前提とし、報道や地域感情を理由とする管轄移転請求には極めて慎重な判断を示すものである。ただし、補足意見では、被告人に個人的な強い憎悪感を抱く者が含まれるような「例外的な場合」を除外しており、個別具体的な忌避・選任手続での対応の限界を超える特段の事情がある場合には、適用余地を否定していない。
事件番号: 昭和49(す)23 / 裁判年月日: 昭和49年3月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法17条所定の管轄移転事由は厳格に解されるべきであり、被告人が身柄拘束によって防御権の行使が妨げられているという主張は、同条1項各号のいずれの事由にも該当しない。 第1 事案の概要:常習累犯窃盗被告事件について名古屋地方裁判所で有罪判決を受け、名古屋高等裁判所に控訴中の被告人が、名古屋拘置…
事件番号: 平成8(し)6 / 裁判年月日: 平成8年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法17条1項2号に基づく管轄移転請求について、憲法37条の公平な裁判所の保障との関係で、原判断が同条項所定の事由に当たらないとした判断を正当として抗告を棄却した。 第1 事案の概要:本件は、被告人が刑事訴訟法17条1項2号に基づき、管轄移転の請求を行った事案である。被告人側は、地方の状況等…