管轄移転の請求が棄却された事例
刑訴法17条
判旨
刑事訴訟法17条所定の管轄移転事由は厳格に解されるべきであり、被告人が身柄拘束によって防御権の行使が妨げられているという主張は、同条1項各号のいずれの事由にも該当しない。
問題の所在(論点)
被告人が身柄拘束下にあることで防御準備に支障を来しているという事情が、刑事訴訟法17条1項所定の管轄移転の請求事由に該当するか。
規範
刑事訴訟法17条1項に基づき管轄移転が認められるのは、①法律上の理由により管轄裁判所が裁判権を行使できないとき(1号)、または②土地の状況、犯罪の性質、地方の民心その他の事情により裁判の公平を維持することが困難なおそれがあるとき(2号)に限られる。
重要事実
常習累犯窃盗被告事件について名古屋地方裁判所で有罪判決を受け、名古屋高等裁判所に控訴中の被告人が、名古屋拘置所に在監中であることを理由に管轄移転を請求した。被告人は、身柄拘束のために裁判所への申述書作成・提出や証人との信書交換が自由にできず、憲法37条等が保障する防御権の行使を著しく妨げられていると主張し、将来の回復困難な損害を避けるため名古屋高裁から東京高裁への管轄移転を求めた。
あてはめ
被告人の主張は、自らの身柄拘束に伴う防御権行使の不自由を理由とするものである。しかし、これは「裁判所が裁判権を行使できない」(1号)事態でもなければ、「土地の状況や民心等の外部的事由により裁判の公平を維持できない」(2号)事態にも当たらない。拘置所内での防御活動の制約は、刑事手続上の身柄拘束に伴う一般的・付随的な事象に過ぎず、管轄権の所在自体を移動させるべき法的理由にはなり得ない。したがって、本件の主張内容は同法17条の定める限定的な移転事由のいずれにも合致しないと解される。
結論
本件管轄移転の請求は、刑事訴訟法17条所定の事由にあたらないため、棄却される。
実務上の射程
管轄移転の要件(17条)の厳格性を確認する事例である。答案上は、被告人の便宜や防御の困難性といった主観的・個人的事情は「裁判の公平を維持することが困難なとき」には原則として含まれないことを論証する際の根拠となる。
事件番号: 昭和37(す)181 / 裁判年月日: 昭和37年7月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑務所内での処遇への不満や、それによる防御権行使への支障の懸念は、刑事訴訟法17条所定の管轄移転の事由には当たらない。 第1 事案の概要:公務執行妨害・傷害被告事件で一審有罪判決を受け、控訴中の申立人が、在監している刑務所の所長らが書面の発送を妨害し、健康状態に配慮した食事の提供を行わないと主張し…
事件番号: 平成8(し)6 / 裁判年月日: 平成8年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法17条1項2号に基づく管轄移転請求について、憲法37条の公平な裁判所の保障との関係で、原判断が同条項所定の事由に当たらないとした判断を正当として抗告を棄却した。 第1 事案の概要:本件は、被告人が刑事訴訟法17条1項2号に基づき、管轄移転の請求を行った事案である。被告人側は、地方の状況等…