花火大会が実施された公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒して死傷者が発生した事故について,警備計画策定の第一次的責任者ないし現地警備本部の指揮官という立場にあった警察署地域官と,同署副署長ないし署警備本部の警備副本部長として同署署長を補佐する立場にあった被告人とでは,分担する役割や事故発生の防止のために要求され得る行為が基本的に異なっていたなどの本件事実関係(判文参照)の下では,事故を回避するために両者が負うべき具体的注意義務が共同のものであったということはできず,被告人に同署地域官との業務上過失致死傷罪の共同正犯は成立しない。
花火大会が実施された公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒して死傷者が発生した事故について,警察署副署長に同署地域官との業務上過失致死傷罪の共同正犯は成立しないとされた事例
刑法60条,刑法(平成13年法律第138号による改正前のもの)211条前段,刑訴法254条2項,刑訴法337条4号,刑訴法(平成16年法律第156号による改正前のもの)250条4号
判旨
過失犯の共同正犯が成立するためには、共同の業務上の注意義務に共同して違反したことが必要である。本件のように、警察署の組織内で役割分担が異なり、具体的な注意義務の内容が共通しない場合には、共同正犯は成立せず、共犯者に対する公訴提起による時効停止の効力も及ばない。
問題の所在(論点)
刑訴法254条2項にいう「共犯」にあたるか、すなわち過失犯の共同正犯が成立するための要件が問題となる。
規範
業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するためには、共同の業務上の注意義務に共同して違反したことが必要であると解される。
重要事実
明石花火大会歩道橋事故に関し、警察署副署長であった被告人が起訴されたが、公訴時効完成の成否が問題となった。共犯とされる地域官(B)は既に起訴されていたため、刑訴法254条2項の「共犯」による時効停止が認められるかが争点となった。組織上、Bは現地警備本部の指揮官として流入規制等の直接的義務を負い、被告人は署警備本部の副本部長として署長を補佐し進言する義務を負っていた。両者の役割分担は基本的に異なり、収集可能な情報や行使し得る権限の内容も分かれていた。
事件番号: 平成19(あ)1634 / 裁判年月日: 平成22年5月31日 / 結論: 棄却
花火大会が実施された公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒して死傷者が発生した事故について,雑踏警備に関し現場で警察官を指揮する立場にあった警察署地域官及び現場で警備員を統括する立場にあった警備会社支社長の両名において,いずれも上記のような事故の発生を容易に予見でき,かつ,機動隊による流入規制等を…
あてはめ
B地域官は現地で配下を指揮し、機動隊要請や流入規制を直接実施すべき具体的注意義務を負っていた。これに対し、被告人は署警備本部にて情報を収集し、署長に進言することで署長の指揮権を適正に行使させるという補佐的・間接的な注意義務を負うにとどまる。両者が負うべき具体的注意義務は、その内容・性質ともに異なっており、共同の注意義務があったとはいえない。したがって、両者に共同正犯が成立する余地はない。
結論
被告人とB地域官との間に共同正犯は成立しないため、時効停止の効力は及ばず、公訴時効が完成している。免訴とした一審・原審の判断は正当である。
実務上の射程
過失犯の共同正犯の成立要件として「共同の注意義務」を明示した重要判例である。組織的過失が問われる事案において、各関与者の職責、権限、情報の把握状況の差異を分析し、注意義務の内容が重なり合うか否かを検討する際の指針となる。答案上は、まず本規範を定立し、各人の具体的義務を認定・対比する流れで活用する。
事件番号: 平成27(あ)741 / 裁判年月日: 平成29年6月12日 / 結論: 棄却
快速列車の運転士が制限速度を大幅に超過し,転覆限界速度をも超える速度で同列車を曲線(本件曲線)に進入させたことにより同列車が脱線転覆し,多数の乗客が死傷した鉄道事故について,同事故以前の法令上,曲線に自動列車停止装置(ATS)を整備することは義務付けられておらず,大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかったこと,…
事件番号: 平成10(あ)677 / 裁判年月日: 平成13年2月7日 / 結論: 棄却
県が発注したトンネル型水路部分を含む水路建設工事につき,トンネル内に周辺の河川からあふれ出た水が流れ込むのを防止する目的で構造物が設置され,当該構造物が周辺の河川からあふれ出た水の水圧で決壊することを予見することができたなど判示の事実関係の下においては,当該構造物の管理を担当する県職員は,決壊による危険を回避するため,…
事件番号: 平成21(あ)359 / 裁判年月日: 平成24年2月8日 / 結論: 棄却
1 トラックのハブが走行中に輪切り破損したために前輪タイヤ等が脱落し,歩行者らに衝突して死傷させた事故について,以前の類似事故事案を処理する時点で,ハブの強度不足のおそれが客観的に認められる状況にあり,そのおそれの強さや,予測される事故の重大性,多発性に加え,同トラックの製造会社が事故関係の情報を一手に把握していたなど…
事件番号: 平成26(あ)1105 / 裁判年月日: 平成28年5月25日 / 結論: 棄却
ガス抜き配管内で結露水が滞留してメタンガスが漏出したことによって生じた温泉施設の爆発事故について,その建設工事を請け負った建設会社における温泉一次処理施設の設計担当者として,職掌上,同施設の保守管理に関わる設計上の留意事項を施工部門に対して伝達すべき立場にあり,自ら,ガス抜き配管に取り付けられた水抜きバルブの開閉状態に…