花火大会が実施された公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒して死傷者が発生した事故について,雑踏警備に関し現場で警察官を指揮する立場にあった警察署地域官及び現場で警備員を統括する立場にあった警備会社支社長の両名において,いずれも上記のような事故の発生を容易に予見でき,かつ,機動隊による流入規制等を実現して本件事故を回避することが可能であった本件事実関係(判文参照)の下では,両名には上記事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を怠った過失があり,それぞれ業務上過失致死傷罪が成立する。
花火大会が実施された公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒して死傷者が発生した事故について,雑踏警備に関し現場で警察官を指揮する立場にあった警察署地域官及び現場で警備員を統括する立場にあった警備会社支社長に業務上過失致死傷罪が成立するとされた事例
刑法(平成13年法律第138号による改正前のもの)211条前段
判旨
多数の参集者が予想される行事の警備責任者は、自主警備では対処困難な混雑が生じた場合、速やかに機動隊の出動要請等の適切な措置を講じて群衆なだれ等の事故を未然に防止すべき業務上の注意義務を負う。
問題の所在(論点)
雑踏警備の責任者において、群衆なだれ事故の発生を予見し、回避するための具体的な措置(機動隊の出動要請等)を講ずべき業務上の注意義務が認められるか。
規範
業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)における注意義務の有無は、当該業務の性質、過去の類似事例、当日の客観的混雑状況、及び立場に基づく権限等に照らし、事故発生の予見可能性および回避可能性が認められるか否かによって判断される。特に、特定の場所に群衆が集中し滞留することが予想される場合、現場責任者は、自主警備の限界を認識した時点で、直ちに公的機関への出動要請等を含む実効的な流入規制措置を講じる義務を負う。
重要事実
兵庫県明石市の花火大会において、歩道橋上に多数の観客が滞留し、双方向の群衆が押し合うことで「群衆なだれ」が発生、11名が死亡し183名が負傷した。警察の現地指揮官(被告人A)および民間警備会社の統括責任者(被告人B)は、過去のカウントダウンイベントでの大混雑や当日の流入状況から事故を予見し得た。また、午後8時前には自主警備の限界に達していたが、Aは機動隊の出動要請を行わず、BもAへの消極的な打診に留まり、具体的な出動要請を進言・実施しなかった。
あてはめ
予見可能性について、両被告人は歩道橋の構造的危険性や過去の混雑実績を認識しており、当日の過密状態から花火終了後の事故発生を容易に予見し得た。回避可能性について、周辺には機動隊が配置されており、遅くとも午後8時10分までに出動指令があれば事故は回避可能であった。Aは自己の判断で出動を実現できる立場にあり、Bも主催者側として強く要請すれば警察が応じないことはなかった。したがって、両被告人が午後8時頃の時点で直ちに出動要請等の措置を講じなかったことは注意義務違反にあたる。
結論
被告人両名には、業務上の注意義務を怠り、結果回避措置を講じなかった過失が認められ、業務上過失致死傷罪が成立する。
実務上の射程
本判例は、警察官と民間警備員の両方について、その具体的な役割と権限に基づき、共同して安全確保にあたるべき不作為の過失を認めたものである。答案上は、予見可能性の根拠として「過去の類似事態」や「当日の具体的状況」を、回避可能性の根拠として「権限行使による事態改善の見込み」を論理的に構成する際の規範となる。
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