閉店後工事が行われていたデパートビルの三階から火災が発生し、多量の煙が七階で営業中のキャバレーの店内に流入したため、多数の死傷者が生じた火災事故において、デパートの管理課長には、防火管理者として、三階の防火区画シャッター等を可能な範囲で閉鎖し、保安係員等を工事に立ち会わせ、出火に際して直ちにキャバレー側に火災発生を連絡させるなどの体制を採るべき注意義務を怠った過失があり、キャバレーの支配人には、防火管理者として、階下において火災が発生した場合、適切に客等を避難誘導できるように平素から避難誘導訓練を実施しておくべき注意義務を怠った過失があり、キャバレーを経営する会社の代表取締役には、管理権原者として、防火管理者が防火管理業務を適切に実施しているかどうかを具体的に監督すべき注意義務を怠った過失があり、それぞれ業務上過失致死傷罪が成立する。
デパートビルの火災事故においてデパートの管理課長並びにビル内のキャバレーの支配人及び代表取締役に業務上過失致死傷罪が成立するとされた事例
刑法211条
判旨
防火管理者は、法令上の規定の有無にかかわらず、建物の構造や利用実態に応じ、火災拡大防止のための防火区画閉鎖措置や、実効性のある避難誘導訓練を実施すべき注意義務を負う。また、管理権原者は、防火管理者がこれらの業務を適切に実施しているかを具体的に監督すべき注意義務を負う。
問題の所在(論点)
刑法211条前段の業務上過失致死傷罪における注意義務の具体的性質と内容。特に、法令に直接の定めがない場合の防火管理者の具体的作為義務、および管理権原者の監督義務の成否が問題となった。
規範
1. 防火管理者等は、法令上の具体的規定の有無にかかわらず、建物の構造、使用状況、火災発生時の危険性等の具体的事状に応じ、結果発生を防止するために可能な限り種々の措置を講ずべき注意義務を負う。 2. 複数のテナントが入居する雑居ビルの管理担当者は、延焼防止のための防火区画(シャッター等)の閉鎖・管理体制を整備すべき義務を負う。 3. 高層階の店舗責任者は、階下からの出火を想定し、安全な避難経路の点検・把握及び実効的な避難誘導訓練を実施すべき義務を負う。 4. 管理権原者は、防火管理者の業務遂行を具体的に監督すべき義務を負う。
事件番号: 昭和62(あ)519 / 裁判年月日: 平成2年11月16日 / 結論: 棄却
ホテルで火災が発生し、火煙の流入拡大を防止する防火戸・防火区画が設置されていなかったため火煙が短時間に建物内に充満し、従業員による避難誘導が全くなかったことと相まって、相当数の宿泊客等が死傷した火災事故において、ホテルの経営管理業務を統括掌理する最高の権限を有し、ホテルの建物に対する防火防災の管理業務を遂行すべき立場に…
重要事実
デパートビル3階から出火し、118名が死亡した事案。被告人G(デパート管理課長・防火管理者)は、閉店後の防火シャッター等を閉鎖せず、工事立会い等の管理体制も整えていなかった。被告人K(7階キャバレー支配人・防火管理者)は、唯一安全な避難階段(B階段)の点検や訓練を怠り、火災時に客を適切に誘導できなかった。被告人I(キャバレー経営会社代表・管理権原者)は、救助袋の不備等を知りながらKの業務を具体的に監督していなかった。
あてはめ
1. 被告人Gについて:夜間無人となる売場に多量の可燃物がある状況では火災拡大の恐れが強い。工事の有無にかかわらず、最小限必要な箇所以外の防火シャッターを閉鎖し、工事立会人を置くなどの措置を講じていれば煙の流入を抑制し被害を回避できたといえるため、過失が認められる。 2. 被告人Kについて:高層階で多数の客を扱う立場として、階下出火時に安全なB階段を把握し訓練を実施することは十分可能かつ必要であった。これらを怠り、避難誘導の機会を逸した点に過失が認められる。 3. 被告人Iについて:防火管理業務が不十分な実態を認識しながら、Kを具体的に監督しなかった点に過失が認められる。
結論
被告人らの各注意義務違反(過失)を認め、業務上過失致死傷罪の成立を肯定した原判決を維持し、上告を棄却した。
実務上の射程
大規模火災における管理責任者の過失を認めたリーディングケースである。答案上では、具体的予見可能性・結果回避可能性を基礎づける「具体的注意義務」の導出に際し、法令の有無に拘泥せず、建物の構造や利用実態から実質的に義務を構成する際の論拠として用いる。また、管理権原者の監督過失を認める際の規範としても重要である。
事件番号: 平成2(あ)946 / 裁判年月日: 平成5年11月25日 / 結論: 棄却
ホテルの客室から出火し、スプリンクラー設備やこれに代わる防火区画が設置されておらず、従業員らにおいても適切な初期消化活動や宿泊客らに対する通報、避難誘導等ができなかったため、多数の宿泊客らが死傷した火災事故において、ホテルを経営する会社の代表取締役社長として、ホテルの経営、管理業務を統括する地位にあり、その実質的権限を…
事件番号: 昭和58(あ)829 / 裁判年月日: 昭和60年10月21日 / 結論: 棄却
一 刑法一一七条の二にいう業務とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう。 二 刑法二一一条にいう業務には、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれる。 三 ウレタンフオームの加工販売業を営む会社の工場部門の責任者として、易燃物であるウレタンフオームを管理するうえで当然に伴う火災…