市内の、水羽葺住家の多い所で、二段式風呂釜を据えつけ、これに経約一尺高さ四〇尺余の煙突を設置し、石炭を燃やして連日開湯する公衆浴場の経営者は、煙道の適当な箇所に消防署係員の指示する金網を装置するのはもとより、しばしば煙突掃除を同う等の処置をなすべきもので、もし右のような措置をなさず、そのまま多量の燃料を燃やそうとするならば、常に風速に注意して火焚きをし、風勢の激しい日には釜焚きを全く中止する等細心の注意を払い、もつて火災の発生を未然の防止すべき業務上の注意義務がある。
公衆浴場経営者の業務上の注意業務。
刑法117条ノ2,刑法116条1項,消防法9条
判旨
浴場経営者は、消防法や市条例に基づく火気取扱上の注意義務を負い、これに違反して火災を発生させた場合には、業務上過失致死傷罪等の責任を負う。本判決は、具体的な法令や証言に基づき、浴場経営者の業務上の注意義務およびその過失を認定した原判断を正当として維持した。
問題の所在(論点)
刑法211条前段の業務上過失致死傷罪における「業務上の注意義務」の範囲、および消防法や地方自治体の条例が定める火気取扱基準が、業務上の注意義務の内容を構成するか。
規範
業務上過失犯における注意義務の有無は、当該業務に従事する者に求められる客観的な注意基準、特に火気を取り扱う業態においては消防法等の公法上の規制や、当該業務の性質から導かれる具体的な危険防止措置の内容に基づき判断される。
重要事実
被告人は浴場を経営する者であったが、その業務において必要とされる火気の取扱いに関し、消防法9条や昭和27年高岡市条例第15号(6条6号ニ、11条11号、39条1号ハ等)に定められた注意義務を怠った。第一審および原審は、証人Aの供述等を踏まえ、浴場経営者としての被告人の注意義務違反(過失)を認定し、業務上過失致死傷罪等の成立を認めた。
あてはめ
浴場経営という火気を日常的に使用する業務に従事する者には、公衆の安全を確保するための高度な注意義務が課せられる。本件では、消防法および市の条例という客観的な法規範によって具体的な火気取扱基準が示されており、被告人はこれに従うべき業務上の注意義務を負っていた。被告人がこれらの基準を遵守せず、結果として火災を発生させたことは、証拠に基づき認定された注意義務違反に該当し、業務上の過失が認められると評価される。
結論
被告人に浴場経営者としての業務上の過失を認めた原判断は相当であり、業務上過失致死傷罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、業務上の注意義務の具体化にあたって、消防法や条例などの行政法規が重要な判断指標となることを示している。答案作成上は、特定の資格や業態に関する過失を論じる際、行政上の取締法規の存在を指摘し、それを「業務上の注意義務」の内容として架橋する論理構成の根拠として利用できる。
事件番号: 昭和53(あ)989 / 裁判年月日: 昭和54年11月19日 / 結論: 棄却
木製ベンチ部分の下部に電熱炉を据えつける方式の組立式サウナ風呂を開発・製作した者が、その構造につき耐火性を検討・確保しなかつたため、右サウナ風呂を継続使用した浴場内において、右木製ベンチを長期間にわたる電熱炉の加熱により漸次炭化させて火災を発生させた場合には、業務上失火罪が成立する。
事件番号: 昭和58(あ)829 / 裁判年月日: 昭和60年10月21日 / 結論: 棄却
一 刑法一一七条の二にいう業務とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう。 二 刑法二一一条にいう業務には、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれる。 三 ウレタンフオームの加工販売業を営む会社の工場部門の責任者として、易燃物であるウレタンフオームを管理するうえで当然に伴う火災…