一 刑法第一一七条の二前段にいう「業務」は、当該火災の原因となつた火を直接取扱うことを業務の内容の全部または一部としているもののみに限らず、火災等の発見防止等の任務にあたる夜警の如きをも包含するものと解するを相当とする。 二 所論は被告人は料理人として昼間八時間勤務した上、更に夜警として勤務したものであるところ、右夜警勤務は行政官庁の許可を受けていないから、憲法二七条二項、労働基準法九三条に違反し無効である。従つて被告人の本件刑事責任は否定さるべきである旨主張する。しかしながら右行政官庁の許可の有無は夜警勤務に関する労働契約の効力如何の問題たるに止まり、夜警としての任務に服したものである以上、刑法一一七条の二の「業務」としての刑事上の責任には何ら消長を来すものとは解することはできない。
一 刑法第一一七条の二前段にいう「業務」の意義。 二 行政官庁の許可を受けていない夜警勤務と刑法第一一七条ノ二の「業務」としての刑事責任。
刑法117条の2,刑法117条ノ2,憲法27条2項,労働基準法93条
判旨
刑法117条の2前段の「業務」は、火を直接取り扱うことを内容とするものに限られず、火災の防止・発見を職務とする夜警業務も含まれる。また、当該業務が労働基準法上の許可を欠くとしても、刑事上の業務性は否定されない。
問題の所在(論点)
1. 刑法117条の2前段の「業務」は、火を直接取り扱う者に限定されるか、夜警等の火災防止・発見を職務とする者も含まれるか。 2. 労働基準法上の許可を欠く業務に従事していた場合、同条の「業務」としての刑事責任を免れるか。
規範
刑法117条の2前段にいう「業務」とは、社会生活上の地位に基づき継続して従事する事務をいい、必ずしも火災の原因となる火を直接取り扱うことを内容とするものに限定されない。火災の防止、早期発見および拡大防止を職務内容とするものであればこれに該当する。また、公法上の監督規定等への抵触は、事実上の事務の遂行に伴う刑事責任の発生を妨げるものではない。
重要事実
食堂の料理人である被告人は、専従の夜間警備員の代行者として、夜間の巡視および盗難・火災の防止に従事していた。本件火災の際、被告人は巡視中に更衣室の電気アイロンが通電状態のまま放置されていたことを看過し、かつ、一晩に数回行うべき巡視を1回しか行わなかった。その結果、アイロンの過熱により出火し、駅舎が焼失した。被告人側は、火を直接取り扱わない夜警は「業務」に当たらないこと、および当該勤務が労働基準法上の許可を得ておらず無効であることを主張した。
あてはめ
被告人は本来料理人であるが、従来から頻繁に夜警の代行を務めており、社会生活上の地位に基づき継続して従事する「業務」性が認められる。夜警の職務内容は火災の発見・防止にあり、これには備え付けの電気アイロンの通電確認や過熱防止措置が含まれる。したがって、被告人にはこれらを早期に発見すべき業務上の注意義務があるといえる。また、行政官庁の許可の有無は労働契約の私法上の効力等に関する問題にすぎず、現に夜警としての任務に服している以上、刑事上の業務としての責任に影響を及ぼさない。
結論
夜警業務は刑法117条の2前段の「業務」に含まれ、被告人は業務上失火罪の刑事責任を免れない。上告棄却。
実務上の射程
業務上失火罪における「業務」の範囲を、直接的な火気取扱者に限定せず、火災予防の監視・点検義務を負う者にまで広げた重要な判例である。答案上は、失火罪における注意義務の根拠が「火の取扱い」そのものではなく「火災の未然防止・早期発見」という職務の性質から導かれる点に注目して論じるべきである。
事件番号: 昭和58(あ)829 / 裁判年月日: 昭和60年10月21日 / 結論: 棄却
一 刑法一一七条の二にいう業務とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう。 二 刑法二一一条にいう業務には、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれる。 三 ウレタンフオームの加工販売業を営む会社の工場部門の責任者として、易燃物であるウレタンフオームを管理するうえで当然に伴う火災…