判旨
刑法117条の2にいう「重大なる過失」とは、注意義務違反の程度が著しいことを指し、わずかな注意を払えば容易に結果を予見・回避できたにもかかわらず、これを怠ることをいう。
問題の所在(論点)
刑法117条の2(業務上失火等罪)における「重大なる過失」の意義、および宿直員としての火気管理義務違反がこれに該当するか。
規範
刑法117条の2に規定される「重大なる過失」とは、通常人に期待される程度の注意すら払わない著しい不注意の状態を指す。具体的には、結果の発生を予見することが極めて容易であるか、または結果回避措置を講ずることが容易であるにもかかわらず、漫然とこれを看過したと評価される場合をいう。
重要事実
被告人は事件当日、宿直員として勤務していたが、火気の取扱いあるいは管理に関して不注意な行為(詳細は判決文からは不明)を行い、失火を招いた。第一審は、被告人が宿直員という立場にありながら、基本的な火気管理の義務を怠った事実を認定した。これに対し、被告人側は当該過失が刑法上の重過失には当たらないと主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人は当日宿直員という地位にあり、施設の火気取締りを行うべき立場にあった。証拠によれば、被告人が宿直員となった事実および自白を補強する鑑定書等の存在が認められる。宿直員としての基本的な注意義務に照らせば、火災発生の危険性を予見・回避することは十分に可能であったと解される。したがって、第一審が認定した一連の不注意は、単なる過失にとどまらず、著しい注意義務違反である「重大なる過失」に該当すると評価される。
結論
被告人の所為は刑法117条の2の「重大なる過失」に該当し、重失火罪が成立する。
実務上の射程
重過失の定義を問う問題において、義務の容易性と懈怠の著しさを論じる際の根拠として活用できる。本判決は決定文であり簡潔だが、職務上の地位(宿直員)に伴う火気管理義務の懈怠が重過失認定に直結することを示唆している。
事件番号: 昭和58(あ)829 / 裁判年月日: 昭和60年10月21日 / 結論: 棄却
一 刑法一一七条の二にいう業務とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう。 二 刑法二一一条にいう業務には、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれる。 三 ウレタンフオームの加工販売業を営む会社の工場部門の責任者として、易燃物であるウレタンフオームを管理するうえで当然に伴う火災…