第一審判決が一般通常人の注意を以つてすれば、当時被告人の夫Aが睡眠剤を嚥下し正常な感覚を失い昏睡状態となつて居たことを容易に認識し得べかりしにかゝわらず、被告人において適当な注意を払わず、夫の容態を確認せず且火気の適当措置を怠つて外出した点に過失責任を認定して失火と過失致死の責任を認めたのは正当である。
昏睡者に対する注意義務と過失致死の責任
刑法210条,刑法116条
判旨
不作為による過失犯の成立について、一般通常人の注意を基準として、相手方の昏睡状態等の危険な状況を容易に認識し得たといえる場合には、容態を確認し火気の不始末を防ぐべき注意義務を怠ったものとして過失責任を負う。
問題の所在(論点)
不作為による過失致死傷罪(または失火罪等)において、相手方の昏睡状態等の異変を認識すべき注意義務、およびそれに基づき容態確認や安全措置を講ずべき義務の有無が問題となる。
規範
過失犯における注意義務の有無および内容は、一般通常人の注意力を基準として判断される。結果発生の具体的予見可能性があり、かつ、結果回避のために適切な措置を講ずべき義務(容態の確認や危険源の除去など)を怠った場合には、過失責任が認められる。
重要事実
被告人の夫Aは極度に厭世的で、夫婦仲も円満を欠いていた。被告人は犯行前日、Aの居室に睡眠剤「アドルム」と遺書があるのを発見した。犯行当日、Aは食事を4回続けて摂らず、2階で仰臥していた。被告人が揺り動かしても覚醒せず、四肢をばたつかせるのみであったが、被告人はAの容態を詳しく確認せず、火気の適当な措置も講じないまま外出した(その後の火災等の詳細は判決文からは不明)。
あてはめ
被告人は、夫の居室で睡眠剤と遺書を発見しており、さらに夫が長時間食事を摂らずに呼びかけにも応じないという異常な事態に直面していた。このような状況下では、一般通常人の注意を基準とすれば、夫が睡眠剤を服用し正常な感覚を失って昏睡状態にあることを容易に認識し得たといえる。それにもかかわらず、被告人は容態を十分に確認せず、また外出に際して火気の始末等の安全措置を怠っており、結果発生を回避するための注意義務に違反したと評価される。
結論
被告人には、夫の容態確認および火気不始末防止の注意義務を怠った過失が認められ、過失責任を負う。
実務上の射程
不作為の過失を認める際の予見可能性の対象(相手方の昏睡状態等)と、それに基づく具体的注意義務の内容を示している。特に、遺書や薬物の発見といった先行する主観的事実が、注意義務の前提となる予見可能性を基礎づける重要な要素となることを示唆している。
事件番号: 昭和28(あ)2527 / 裁判年月日: 昭和30年7月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法117条の2にいう「重大なる過失」とは、注意義務違反の程度が著しいことを指し、わずかな注意を払えば容易に結果を予見・回避できたにもかかわらず、これを怠ることをいう。 第1 事案の概要:被告人は事件当日、宿直員として勤務していたが、火気の取扱いあるいは管理に関して不注意な行為(詳細は判決文からは…
事件番号: 昭和58(あ)829 / 裁判年月日: 昭和60年10月21日 / 結論: 棄却
一 刑法一一七条の二にいう業務とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう。 二 刑法二一一条にいう業務には、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれる。 三 ウレタンフオームの加工販売業を営む会社の工場部門の責任者として、易燃物であるウレタンフオームを管理するうえで当然に伴う火災…