原判決の是認した第一審判決は、(註。被告人は材料置場に置いてある油に放火するときは、A方及びその附近の家屋に延焼し、同家屋居住者の生命身体に危害を及ぼすに至る虞のあることは少し注意すれば容易に予見できたのに拘らず……憤激の余り漫然所携のマツチで右油槽内のシンナ、白灯油等に放火した。)被告人は燃えている物に蒲団、砂をかける等臨機の措置をとつて火勢が拡大し被害が他に及ばないよう沈着適切な行動をとるとともに、当時二階に寝ていたBに対し可及的速かに火災の急を告げて同女を屋外に避難させ、或いは他人に救助を頼む等あらゆる方法をこうじ、もつてBの救助に最善の努力を傾ける注意義務があつた旨を判示している。そして被告人の右注意義務は、原判示の是認した第一審判決の確定した事実関係の下においては、一般通常人の注意を払うことにより、よく罪となるべき事実を認識しうべき程度の注意義務と解するを相当とし、また、その注意義務を果すことが期待不可能であつたとは認められない。しからば、被告人が右の注意を怠り、よつてBを死に致した被告人の本件行為を過失犯をもつて問擬したことは正当である。
重過失致死罪の成立を認めた事例。―放火後の注意義務
刑法38条1項,刑法110条1項,刑法211条後段
判旨
火災が発生した場合において、火勢の拡大防止や屋内にいる者の救助等、結果回避のために尽くすべき最善の努力を怠ったときは、一般通常人の注意を基準として過失犯の責任を負う。
問題の所在(論点)
火災発生時における被害者救助等の結果回避義務の存否、およびその具体的態様が問題となる(刑法210条の過失致死罪における注意義務の内容)。
規範
過失犯における注意義務は、行為者が一般通常人の注意を払うことにより、罪となるべき事実(結果)を認識しうる程度のものとして構成される。具体的には、結果の発生を予見し、それを回避するために臨機の措置を講じ、または他人の救助を求めるなど、その状況下で期待可能な最善の努力を尽くすべき義務を指す。
重要事実
被告人が関与した状況下で火災が発生した。当時、建物の二階にはBが就寝していたが、被告人は燃えている物に布団や砂をかけるなどの消火活動による火勢拡大防止措置や、Bに対して火災の急を告げて屋外に避難させる、あるいは他人に救助を依頼するといった救助活動を十分に行わなかった。その結果、Bは焼死するに至った。
あてはめ
被告人には、火勢が拡大し被害が他に及ばないよう沈着適切な行動をとるべき義務があった。また、二階で就寝中のBを速やかに避難させるか、困難な場合には他人に救助を頼むなどあらゆる方法を講じて救助に最善の努力を傾けるべきであった。本件の事実関係によれば、一般通常人の注意を払えば結果を認識し、これらの回避措置をとることは可能であり、期待不可能であったとも認められない。したがって、被告人がこれらの注意を怠りBを死亡させたことには過失が認められる。
結論
被告人に過失致死罪が成立するとした原判決の判断は正当である。
実務上の射程
本判決は、不作為の態様を含む過失犯における注意義務の具体的内容を示したものである。答案上は、過失の基本的構造(予見可能性に基づく結果回避義務)を論じる際、特に具体的状況下で期待される回避措置の内容を「最善の努力」として構成する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)2527 / 裁判年月日: 昭和30年7月23日 / 結論: 棄却
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事件番号: 平成10(あ)579 / 裁判年月日: 平成12年12月20日 / 結論: 棄却
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